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「すごい……。ムーンストーンみたい」
「え? なんて?」
「……あれっ?」
「なに」
「おたまじゃくしがいないっ」
驚愕に声をあげる。
永田くんの液体の中には、おたまじゃくしが一匹もいなかった。想像よりもっと小さいのだろうかと目をこらしてみるが、それでも見えない。
そうか。永田くんは自分の液体の中におたまじゃくしがいないことを知っていたんだ。だから、栗原さんの座席にあんなことをしたんだ。妊娠の心配がないから。
「小泉さん。それ本気でいってんの?」
すっかりかわいげをなくした永田くんがあきれたようにいう。
「どういうこと?」
「そんなの見えるわけないじゃん。てか、見えたらキモくねえ?」
「じゃあやっぱり、想像よりもっと小さいってことか……」
壁に滴るムーンストーンをまじまじとみつめる。永田くんのいうとおり、この中にたくさんのおたまじゃくしがいるかと思うと、ちょっと気持ちわるい。
「小泉さんって」
「うん?」
「おれのこと好きなの?」
「えっ。ううん。ちがうよ」
わたしの即答に、永田くんは心底あきれた顔をした。「そう。じゃあ、ただの変態なんだね」と納得したようにつぶやく。
「永田くん、今日はほんとうにありがとう」
「ありがとうって……。いや、うん。まあ。はい」
「つぎはいつにする?」
「えっ。またすんの?」
「定期的にっていったじゃない」
「あ……。そうだったね。……はい」
わたしたちは火曜日に会う約束をして、わかれた。
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