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家に帰ると、妹たちが待ちかまえていたみたいに出迎えてくれて、お母さんは忙しそうに夕飯の支度をしていた。
うそをついていたことには胸が痛むけれど、ふしぎと罪悪感はない。わたしはふわふわとした幸福感に包まれていた。
せめてもの罪滅ぼしにと夕飯の支度を代わって、妹たちのお風呂もわたしがいれた。
自分の部屋に戻ったころにはすっかり疲弊していたけれど、心はつるつるに潤っていた。本棚にしまっている宝石図鑑を手に取って、ベッドに沈む。
夕陽に照らされたガーネット。そそり立つローズクオーツ。産み出されたムーンストーン。いじけた永田くんの瞳は黒曜石。
ページをめくりながら、永田くんのことばかりを考える。
お母さんが好きな漫画の一つに「異世界戦士キラメシア」という漫画がある。現代の女の子が異世界にトリップして、世界を救うために戦うという、わりとよくある設定の漫画だ。
顔の面積の半分を占める目の描きかたも独特な世界観も、正直好みではなかったけれど、彼女の戦闘服の装飾にはとても魅了された。胸や腰、ブーツにまで、いたるところに大粒の石がデコレーションされている。これは果たして戦うのにふさわしい格好なのだろうかと思わないでもなかったけれど、わたしのようなかわいげのない感想を抱く子ども心にも刺さるような美しい描きかただった。
宝石という存在にすっかり心を奪われたわたしは、お母さんに強請ってこの宝石図鑑と異世界戦士キラメシアの原画集を買ってもらった。
宝石のように美しい永田くん。
もしかしてわたし、永田くんに恋をしてしまったんだろうか。あの日から、こんなに永田くんのことばかりを考えてしまうなんて。
だけど、異世界戦士キラメシアの主人公キラちゃんは、異世界で出会った騎士、マーベラスと恋に落ちるけれど、わたしと永田くんのようなことはしていなかった。それに、彼女はいつなんどきでもマーベラスにドキドキしていて、あれが恋というものなら、わたしの永田くんに対するこの気持ちは、やっぱり恋ではないのかもしれない。
宝石図鑑を胸に抱いて、目をつむる。今日の永田くんは、鮮明に再生できた。
この気持ちが恋じゃなくてもかまわない。永田くんがずっとずっと、わたしとこうしてくれているなら。
永田くんがいつまでもわたしに服従してくれますように。できれば大人になっても。
わたしはこの日、ようやく睡眠不足から解放された。
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