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 永田くんとわたしのいびつでひみつの関係は、トパーズの季節を越えてパールが降るころまで滞りなくつづいた。  自慰に耽る永田くんを、わたしはいつも聖母のごとく包みこんだ。胸に抱かれた永田くんは産まれたての赤ちゃんのようにかわいくて、永田くんの子どもを産んだらこんなふうに愛おしい気持ちになるのだろうかと、ふと思ったりもした。  けれど、わたしたちは季節を越えても自慰を見る側と見られる側という関係をこえなかった。わたしはそれで、じゅうぶんだった。  じゅうぶんだったのは、どうやらわたしだけだったらしい。永田くんは自慰の最中に、凪のなかに入りたい、と強請ってくるようになった。  そのたびにわたしはだめと答えた。じらしているわけではない。入れる側と入れられる側になったら、圧倒的にわたしのほうが弱くなる。  弱くなったわたしに、永田くんが興味をなくしてしまったら。そう思うと、怖かった。  けれど、もっと怖かったのは、男の力を思い知ったときだった。  永田くんはある日、ついに辛抱できなくなって、わたしをベッドに押さえつけた。 「凪。もうだめ。したい」  わたしを見下ろす永田くんも、首筋に噛みついてくる永田くんも、ぜんぜんかわいくなかった。飢えた肉食獣みたいで恐ろしい。悲鳴もあげられず永田くんに組み敷かれたわたしは、無力な草食動物さながらに哀れだった。  わたしは、わたしと永田くんの清廉な関係がいま終わったことを悟った。絶妙なバランスで成り立っていたこの関係は、永田くんの身勝手な行動であっさりと幕をとじてしまったのだ。  怒りと悲しさとせつなさが入り混じって爆ぜて、気がつけばわたしは永田くんのひょろい体を突き飛ばしていた。  わたしの剣幕がよほど怖かったのか、永田くんはなにかをいおうとした口を噤んだ。 「調子にのらないでよ」  そういうと、永田くんは怒るどころか、ひどく傷ついた顔をした。 「……そうだよな。凪はおれのこと、べつに好きじゃなかったもんな」  永田くんのそれが、永田くんと同じ角度でうなだれる。  ガーネットはもう輝きを失っていた。
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