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 それから数日ほどたったころだった。永田くんが栗原さんとつき合いはじめた。  うわさによると、どうやら栗原さんのほうから永田くんに告白をしたらしい。  栗原さんも永田くんのことが好きだったなんて。ふたりが両思いだったなんて、まったく気づかなかった。みんな、恋心を隠すのがじょうずなんだな。  栗原さんといっしょにいるときの永田くんは、わたしの知っている永田くんではなかった。いつも笑顔で、さわやかで、まっすぐ。スモーキークオーツの瞳は、にせものの宝石のように不自然にきらきらしていた。  まったく美しくない。かわいくもない。あんな永田くん、わたしは好きじゃない。栗原さんのとなりで笑っている永田くんなんて、わたしは。  あたりまえだけれど、永田くんはコンビニに来なくなった。わたしは一ヵ月くらい通ってみたけれど、コンビニの自動ドアから永田くんが現れることはもうない。  栗原さんとつき合えたんだ。それもそうか。自慰なんてしなくても、永田くんのガーネットはちゃんと栗原さんのなかに入れる。ムーンストーンもおたまじゃくしも、ティッシュなんて無機質なものじゃなく、栗原さんの子宮がやさしく包みこんでくれる。  来るはずのない永田くんを待っている自分がみじめになってきて、わたしもとうとうコンビニに行くのをやめた。火曜日にもまっすぐ帰宅してくるわたしをみて、お母さんが「お友だちはどうしたの?」と気遣わしげにたずねてくる。 「いなくなった」  そう答えると、うがいも手洗いもせずに階段を駆け上がった。  ほんとうに、いなくなった。永田くんは、いなくなってしまった。  部屋に入ったとたん、涙があふれてきた。なにものなのかわからない涙が、体の奥からせぐりあげてくる。  まぶたの裏に映ったのは、自慰をしているときの永田くんではなく、なぜかコンビニでわたしをみつけたときの笑顔の永田くんだった。  けっきょくわたしは、高校三年の春になっても、永田くんのことを忘れられなかった。  青春という、大人までもがこぞって夢中になる存在に、わたしはまったく興味が持てなかったわけだけれど、なんとなく、わたしの青春はすべて永田くんだったんだと思う。  うさんくさい文化祭も、お芝居みたいな修学旅行も、永田くんとのあの時間にはなにもかなわない。  永田くんといっしょにいるとき、わたしはわたしのままでいいんだと思った。ほんとうはだれの見本にもなれないわたしを、永田くんはいつもまるごと受けとめてくれていた。
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