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おもわず、口のかたちが「あ」になる。永田くんはあのあと、栗原さんの椅子をきちんと拭いたのだろうか。なんとなく拭いていない気がする。塗りたくるくらいだもの。
栗原さん、あれで妊娠とかしちゃわないだろうか。この教室でただひとり――正確には張本人の永田くんとふたり――真実を知る者としては、勝手に心配になる。
男のひとが産み出したあの液体の中には、どういうわけかおたまじゃくしがいるらしい。女のひとは、おたまじゃくしを体内に無理くり入れられて、妊娠する。
初めてそのことを知ったとき、わたしはそんなグロテスクな手順で完成したのかと軽く絶望した。
永田くんのおたまじゃくしがスカートとパンツを突き破って栗原さんの体内を駆け巡る。おっぽをふりふり、びゅんびゅん突き進んでいくおたまじゃくし。想像上ではちょっとかわいい。
ちらりと永田くんのようすを窺う。
永田くんは、ほんのいっしゅん、けれどたしかに、栗原さんの股あたりを見ていた。
その瞳に底がなくて、ぞっとする。同時に、またおなかのあたりがきゅっとした。
永田くんが自分を悦ばせているところを見たとき、おなかの底あたりが膨張して破裂しそうになった。心臓からおなかにかけてがきゅうと痛くなって、きもちいい。
みんな、ほんとうの永田くんを知らない。この世でただひとり、わたしだけがあの永田くんを知っている。
また、見たい。
どうしたらまたあの永田くんが見られるか。わたしはそのことばかりを考えるようになってしまった。
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