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帰宅して玄関を開けると、麦と紬がリビングから駆けて出迎えてくれた。
「凪ちゃんおかえりー」
おそろいの表情と声音。麦と紬は年のはなれた双子の妹だ。
「ただいま。ふたりとも、帰ってきてからうがい手洗いした?」
「したっ」
「したー」
「ほんと? お姉ちゃんのお手本とおなじようにできた?」
「できたっ」
「できたー」
満足してうなずくと、わたしは洗面所に向かった。
イソジンの原液を蓋の目盛りで一回分、きちんと計る。うがい用のコップに注いだあと、水も目盛りに合わせて汲んだ。
あー、と声に出しながらうがいをすると効果があるらしい。だからわたしはいつも声を出しながらうがいをする。わたしがそうすると、麦と紬も必ず真似をする。だからわたしは、いつだって正しいことをしなければならない。
ニュース番組で学んだ手の洗いかたにならって手を洗うと、部屋着に着替えてキッチンへ向かった。
夕飯の下ごしらえは三姉妹でする。とはいっても、麦と紬は包丁や刃のついた調理道具は使えない。野菜を洗ったりピーラーを使わなくてもいい野菜の皮むきくらいしかできないので、実質わたし一人でやっているようなものだ。
お母さんは専業主婦だけれど、趣味で漫画を描いていてインスタグラムにアップしている。わたしも何度か見せてもらったことがあるけれど、素人が描いたとは思えないほどじょうずだと思う。つい先日フォロワーが一万人を超えたときは、家族みんなで焼き肉屋でお祝いした。
そんなわけで、お母さんはわたしが帰ってきてからいよいよ趣味に没頭できる。長い時間ではないけれど、お母さんはいつもそのことをたいそう喜んでくれた。いつも助けてくれる側の大人の手助けができると、わたしも誇らしく、うれしく思う。だから、手が空いたときは進んで家事と妹たちの世話を手伝った。
夕飯を食べ終えてから茶わんを洗い、片づけるまでがわたしのしごと。いつものルーチンワークが終わると、お風呂に入って自分の部屋へ戻った。
ベッドに寝そべってスマホを手にする。グーグルアプリを開くと、わたしは小さくうなった。
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