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 いてもたってもいられなくなったわたしは「図書室で調べものをしなければならない」とうそをついて、あの日とおなじ時間帯までまんじりともせず学校に身をひそめた。  わたしの帰宅を心待ちにしているお母さんや妹たちをがっかりさせてしまうことには胸を痛めたけれど、どうにもこの衝動を抑えることができない。わたしはわたし以外の生きものに、このころからなりつつあった。  そもそもあの日のわたしは、忘れものをして学校に戻ったのだった。翌日に提出しなければならないプリントを、あろうことかロッカーに置き去りにしてしまった。  みんなの前で先生に注意されるなんて、わたしにとっては処刑台に立たされているも同然。自分のうっかりミスに辟易しつつ、家まであとちょっとというところで学校へ引き返した。  そのおかげでわたしはあの永田くんに出会うことができ、同時にプリントも忘れた。  あの日は、朱色のはじっこからじんわりと夜がおりてきていた。眠りたくないとだだをこねる夕陽が、最後の力を振りしぼって光を放っていたのを覚えている。  校内にいる生徒はごくわずかだったから、先生に見つかってしまわないようびくびくしながら忍者のごとく足音を抹消することで頭がいっぱいだった。  だからたぶん、永田くんはわたしに気づけなかった。永田くんにとっては不幸で、わたしにとっては幸福だった。  身をひそめていた教室のなかがうす暗くなってきたので、わたしはさっそく活動をはじめた。あの日よりさらに万全を期して、廊下で上履きを脱いで2-Cへ急ぐ。  おそるおそる覗いた教室に、永田くんはいなかった。なんのストーリー性もない雨の音だけが教室に響く。  粘り強く待ってみたけれど、いよいよ空がとっぷりと暮れたころ、わたしはほんとうにがっかりしながら学校を出た。帰路に着きながら、永田くんへの苛立ちをふつふつと募らせる。  手に入らないと、ますますほしくなってくる。  どうしてもあきらめきれなくて数日おきにチャレンジしてみたけれど、結果はおなじ。完膚なきまでの負け戦が続いた。  一方的な攻防戦が三週間は続き、決着がついたのはとつぜんのことだった。
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