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こんな時間にネタ合わせするのは、僕らはお笑い芸人だからだ。
一応、有名芸能プロダクションに所属し「赤城青野」というコンビ名で活動している。
赤城の名前を先に持ってきているのは、コンビ名は最初に名前があったほうが責任が重い…という暗黙のルールがあるからだ。
僕はできるだけ責任から距離をとって人生を歩んでいる。
いかにも売れなさそうなコンビ名だが、2年前に深夜番組の「ツギクル芸人」特集でハネてから、ぼちぼちテレビの仕事が入るようになった。
今年で結成して5年目、赤城も僕も25歳…。
遅咲き芸人が多い中、いいスタートをきれていると思う。
「新しいネガティブネタできたか?」
赤城に質問されハッとなる。
「ごめん。テレビのロケが忙しくて…。」
「そうか…。じゃあ『ミステリハンター』と『先輩のお誘い』を合わせるか。」
「うん。『先輩のお誘い』は深夜で結構ウケたね。まずは『ミステリハンター』からやるね。」
『ミステリハンター』は某クイズ番組のレポーター役の仕事が入ってきたのを想定し、ネガティブシンキングを繰り広げる。
通常は可愛い女性なのに、冴えない僕が抜擢されたのは、過酷なロケに違いない…と妄想してパニックになるネタだ。
『先輩のお誘い』は、大物のお笑いの先輩に飲みに行こうと誘われたが、ワナなんじゃないかと疑う。
先輩はストレスが溜まっていて、僕をボコボコにしたいんじゃ…とか、無理やり飲まされて吐いているところを、ライブ配信されるんじゃないか…とネガティブな発想を連発する。
どちらのネタもオチはオファーや誘いを断る!と僕が癇癪を起こして終わる。
僕のネガティブキャラと赤城の淡々とした対応のコントラストがよく、コンテストでも勝てるようになってきた。
漫才の立ち位置で言えば、赤城はツッコミ、僕はボケ…。
僕の方がセリフが多く、数回合わせた後は、喉がカラカラになっていた。
「洗濯も終わったし、帰るか。」
赤城は特に漫才についてはコメントせず、洗濯物を取り込む。
「赤城、明日仕事は?」アパートまでの道中、互いのスケジュールを確認する。
「俺は何もない。朝から群馬帰って、数日バイトする。」
「…僕は昼から収録が入ってる。あの番組…いつも脱がされるから嫌なんだよな。」
「まあ、頑張れよ。」
すべてのコンビがいつも2人でテレビに出るわけではない。
「赤城青野」のコンビはテレビ露出は僕「青野」が圧倒的に多い。
赤城はそれを羨むわけでもなく、淡々とネタを練習し、僕のピンの仕事にアドバイスをくれる。
僕よりも赤城のほうがよっぽど面白いのだが、テレビはまた違った尺度でタレントを選んでいるようだ。
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