コールセンター

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コールセンター

 また受信する。怒りを。苛立ちを。  今日一日だけでいったいどれほどの人間が、このコールセンターに電話をかけてきているのか。  私はそれを受けるばかりで、勿論自分から発することはない。どんなに理不尽だと思われる内容でも、だ。  周りの同僚たちも、表面上柔らかい口調で話してはいるが、内心ははらわたが煮えくり返っていたり、泣いていたりするのだろう。  不健康。無駄。  そんな言葉が脳裏をよぎる。  そもそも、これにどれほどの意味があるというのか。苦情を受け付けたところで、正直根本的な解決にはならないのだ。そう、敢えて言いきってしまおう。根本的な解決にはならない。せいぜい、一時的にスッキリする程度だ。こんなことにエネルギーを使うくらいならもっと他のことに使えないものだろうか。吐き出す側の消費エネルギーも、受ける側の消費エネルギーもけっこうなものだと思う。はっきり言って勿体ない。しかも、それが毎日あるのだ。このエネルギーをもっと他のことに有効活用できないものだろうか。  ……そうだ。有効活用すればよいのだ。  なぜもっと早く思いつかなかったのだろう。よし。思い立ったが吉日だ。早速動くとしよう。  それから、私はコールセンターにかかってくる数々の苦情によって生み出される負のエネルギーを、別のものに転用するシステムを作り出した。  怒りや苛立ちといった感情に伴うエネルギーというのは相当なものである。国や地域によって差はあれど、人間の負の感情というのは無くならないのだ。つまり人間が生きている限り、このエネルギーは無限と言ってよかった。  コールセンターの電話が鳴れば鳴るほど、エネルギーが蓄えられ、私たちの生活は豊かになっていく。  次第に、原子力や水力、火力に並ぶエネルギー源となった、苦情エネルギーは、今では私たちの生活に欠かせないものとなった。  そうして、それを生み出した私はあの頃では考えられない程の財を成し、生活はウハウハ。とうとうノーベル賞も授与し、歴史に名を刻む人物とまでなった。  数々のインタビューで私は言う。  あのコールセンターでの苦情受付の日々も決して無駄ではありませんでした。あれがあったから、今の私、今の世界があるのです。ありがとうコールセンター。コールセンター万歳!  ――プルルルルル。  いつもの受信音で私は現実に戻される。  現実逃避のために空想をしてみたが、一分ももたなかったようだ。  仕方ない。これも仕事だ。何にも代えられない、ただの苦情を受けてエネルギーを消費しよう。  はーあ。  無駄だな。 
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