臭くないほうの四つ葉のクローバー

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「待って!」  テンパりながら、藤田の腕をおさえたら、 「え、なになになになに?」  って、藤田もテンパった。 「これ、あれなの、臭いの」 「は?」 「犬のウンコついてんの、それ」 「マジで?」 「マジで」  藤田がコロンボを見て、ちょっと間があって、笑った。 「あっぶねえ。いやあ、そうか。でもそんなことある?」 「最悪でしょ?」  言って、あたしも笑った。 「たしかにな。じゃあ、あれだ、臭くないほうの四つ葉のクローバー、さがそうぜ」 「え?」  って言ったときには、もう藤田は四つ葉のクローバーを探しはじめてた。 「いいよ。悪いよ、藤田」 「おれさ、お前にお礼しなきゃなーって、ちょうど思ってたんだよね」 「お礼? なんかあったっけ?」 「ほら、中一のときさ、お前に占ってもらったことあっただろ」 「あー」  あんまよく覚えてないけど、たしかに占った。 「でさ、あのときおれ、中学でも卓球つづけようか悩んでてさ。そんであんま信じてなかったけど、お前に占ってもらったらさ、『続けたほうがいい。レギュラーになれるから』って言われたじゃん」 「そうだったっけ?」 「そう」 「それで続けたわけ? あたしの占いで?」  なんか、逆に悪いことしちゃったような気がする。 「まあ、それだけじゃないんだけどさ、とりあえず続けることにしたんだよ」 「ごめん。外れちゃったね。ほんと、ごめん」  マジで、もう占いやめよう。 「いや、外れてねえよ」 「え?」 「おれさ、こんどレギュラーになったんだよ」 「マジで?」 「マジで」  マジか。 「でも、それは藤田ががんばったからでしょ。あたしの占いは関係ないよ」 「かもしんないな。でもさ、山中の占いのおかげで続けられてたんだよ、おれ」  そうなのか。  あたしの占いも、だれかの役に立ってたんだ。  なんか、ちょっと嬉しい。 「あ。おい、あったぜ!」 「マジで?」  言って、藤田のとこ行ったら、ほんとに四つ葉のクローバーがあった。 「ほい」  四つ葉のクローバーを摘み取って、あたしに渡してくる藤田。 「マジでいいの? もらって」 「いいよ。お礼だからな」 「ありがと」 「じゃあ、腹減ってるから、帰るわ。今度さ、試合で勝てるかどうか、占ってくれな」 「あ、うん」  って、うなずいたら、藤田もうなずいて、帰っていった。  顔あんなだけど、藤田って、中身はけっこうイケメンなのかも。  こんどまたほんとに藤田を占うことになったときのために、もっと占い勉強しておこうかなってちょっと思った。  ヒマだし。  で、 「帰るよ」  って言ったら、 「バフッ」  って、いつものヘンな声でコロンボがこたえた。  で、臭くないほうの四つ葉のクローバーをクルクル回しながら、あたしはコロンボと一緒に歩き出した。  で、ふと思い出して左手を見た。    あたしの左手には、神秘十字線がある。
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