76人が本棚に入れています
本棚に追加
/235ページ
「おつかれさま、成瀬くん」
イスから立ち上がって、カメラマンやメイク、スタイリストなどのスタッフたちに律儀に頭を下げている眞人のもとに、太陽出版雑誌部の編集長である大林明子が歩み寄る。
「あ、大林さん。ご無沙汰してます」
ぺこり、いや、ぺこん、というのに近いだろうか。ひときわ深くお辞儀をしたあとに、眞人は白い八重歯をのぞかせた。
「あいかわらずね」
「あいかわらずってなんすか、もう」
刈りあげた横髪を掻いて、眞人はくしゃりと笑う。先ほど、カメラの前でアンニュイな微笑をたたえていた青年とは思えない。
「そのギャップに何人の女子がやられてると思ってるの」
「やめてくださいよ、照れますから」
明子が、まあ、と眼鏡の奥で呆れた色を見せると、眞人はかすかに頬を明るくして、手をひらひらと振った。
「今回も、いい写真がたくさんよ。成瀬くんには頭が上がらないわ」
「いやいや、本当太陽出版さんには頭が上がりません。いつもこっちが気楽にやらせてもらえてます」
そこまで話したところで、明子が、どうぞ、と着座を促した。すみません、眞人がまた頭を下げてイスに座る。すかさずスタッフが飛んできて、テーブルにミネラルウォーターのボトルが置かれた。
「サイダーのほうがよかった?」
「そうですね、できるならそっちがよかったなあ。でも今事務所からNG出てるんですよ」
やれやれと苦い顔をしてボトルの蓋を開ける眞人に、明子はふふ、と微笑む。
「このドラマが終わったら、今度は映画に、それから昼の連ドラが待ってるものね」
眞人はごくりと喉を潤して肩をすくめた。
「ありがたいことに。まだまだ忙しくなりそうです」
「そのときはまたよろしくね。十ページでも百ページでも割くから」
「百ページはさすがに勘弁してほしいですかね」
情けなく眉を下げた眞人に、「次、準備OKです」と声がかかる。
「はい。――じゃあ、すみません大林さん。今日は忙しいのにわざわざありがとうございました」
「それはこっちのセリフ。インタビュー、根掘り葉掘り答えてちょうだいね」
困ったなあ、こめかみを掻いて、眞人は立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!