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「ただいま。なんかいい匂いするね」
仕事から帰った彼を、美味しい香りで出迎えることができてよかった。レシピサイトとにらめっこしながら作ったそれは、鯛のアクアパッツァ。ナポリの風を我が食卓に運んできたのだ。
地中海地中海と、うるさい彼を黙らそうと作ってはみたけれど、私の料理の腕では満足させられるかはわからない。「美味い美味い」と彼は食べてはくれたけれど、やはり本場の料理にかなうとは思えない。
けれど、せめて地中海の雰囲気でも味わってもらいたかったのだ。そう伝えると、彼は笑顔で私の頭を撫でた。
「そっか。ありがとう。ごめんね、困らせちゃったね。地中海旅行はいつか三人で行こう。君と、僕と、子どもとでね」
声にならない声でかすかに、うん、と私は頷いた。
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