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源八橋でタクシーを拾い梅田まで行く。狭い部屋にチェックインしてシャワーを浴びる。山田はもう少しいい部屋でもいいだろうと感じた。せめて別部屋にして欲しかった。部長の背中に鞭の後が残っている。腹には赤く爛れた火傷のような跡、蝋燭だ。部長は感じると『アヘッン、アヘッン』と声を上げると明美が笑って言っていた。
「さあ、偵察に行こうか」
ネオンが輝く梅田の街で、大阪の水に慣れることは何をするにも一番大事である。馴染まなければコップの中で浮いてしまう。掻き回してもすぐに分離する。分離していては水が合わないと嫌われる。大阪人の空気を少しでも読むことが偵察の狙いである。
「ここどうかね?」
神原部長が立ち止まる。クラブではないが高級感のあるパブ。地元の富裕層が利用しそうな店である。
「望むところです」
ボーイが出迎えた。一見ではあるが商社マンと見立てたボーイは馴染み客から離れた席に案内した。セオリー通りママが席に着く。それとなく懐具合を察知する。いやらしいがこれが客に対するマナーである。二人共仕立てのいいスーツ、腕時計も国産の高級品。ママの謝辞が終わった。
「明日大事な所用があるので、セーブしなければならないが、ボトルを入れてもらおうか。うん、ママおすすめでいい」
ママが席に着いたままボーイを呼んだ。ママは上客と読んだ。当たり障りのないヘネシーが運ばれ売れっ子のホステスが列席する。
「へえ、お客さん合いの手師かいな?」
必ず場を盛り上げるホステスが一人いる。大きな声に客の視線が山田に集中した。
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