偽新郎新婦

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偽新郎新婦

 ウェディングドレスの試着というものに仕事で来ることになってしまった。というのも、バイトとしてのボディーガードの仕事を正式に依頼されて、昼間は学校。土日や夕方はバイトを入れる生活となっていた。  俺としては好きな人と一緒にいることができるし、お金も入ってくるので、割りのいいバイトとして大歓迎だった。毎日夕方はほとんど剣術の相手をすることが多く、城には達人レベルの者もたくさんいたので、刺激となるという思わぬ収穫もあった。 「ドレス似合うのか微妙だな」  口角が勝手に上がり、皮肉めいたことが口から滑り落ちる。俺はこういった性格なのかもしれない。 「まぁ、形式だけの結婚だ。18歳になったら結婚をして国を背負う者として勉強をしていくというシナリオだ。人生決められたレールを走る。でも、私の目標は国の王だ。だから、その条件に結婚があるのならばやむおえないと思っている」  ルイザは野望と諦めに満ちた顔をしていたが、とても17歳とは思えないしっかりした顔つきだった。国を背負う覚悟を持っているのだろう。そんな女性を今まで見たこともない俺は、ますますその姿勢に惚れこんでいた。勇ましく巨大なものを背負って生きているルイザはかっこいいと思えた。 「形式だけの結婚ってどういう意味だ?」 「寝室は別だし、子供も作らん」  無愛想に答えるその様子はとても17歳の女性とは思えない言動だった。 「好きな人がいるとか?」 「まさか、人を好きになるつもりはない」  彼女の生い立ちがそうさせているのか、その時の俺には全くわからなかった。 「このドレス、お似合いですよ。イメージに近いものをお持ちいたします。オーダーメイドはお任せください」  純白のドレスに包まれたルイザはいつもとは別人のように清楚でかわいらしく思えた。 「おい、おまえ、タキシード来てみろ」 「はぁ?」 「イメージだよ。オーダーメイドするには新郎の衣装とのバランスも必要だ」  なぜか急遽新郎役をやらせられるようになった俺は、少し戸惑いながら慣れない正装に身を包む。 「似合うか?」  俺が控えめに尋ねると、 「私のドレス姿は似合うと思うのか?」  真顔で迫る。 「それは、その……」  恥ずかしくて似合うという一言が出てこない。俺は何も言えずにその場に立ち尽くしていた。無関係の人間なのにこんな格好をしているなんて他の人に知られたらくびになってしまうかもしれない。 「写真を撮ってくれないか?」  衣装屋のコーディネーターにルイザは頼んでカメラを渡す。カメラ持参だったとは、さすが女子なのかもしれないと密かに思う。  二人で撮る衣装に包まれた写真は俺と彼女の最初で最後の1枚となるのだろう。偽新郎なのだから、未来永劫、彼女の横に立つことはかなわないことくらいわかっている。
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