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婚約者
その後、顔合わせの日がとうとうやってきた。
許嫁というか既に婚約者と呼ばれるその人は、颯爽とスーツ姿で現れた。
俺の方が絶対顔立ちはイケていると思うが、それは個人の価値観なので何とも言えない。温和で柔和な顔をしたおぼっちゃん風の婚約者は何不自由なく過ごしてきたという温室育ちをにおわせる。
初対面に俺は仕事として立ち会う。なぜかルイザの指名でバイトながらいつも仕事を頼まれるのは俺だ。その理由としてはルイザより強い者が俺しかいないということだが、いい勝負の強者はいないわけではない。
いつもながら無愛想で興味のなさそうな顔のルイザの用意された衣装は女性らしいものだった。普段あまりかわいらしい格好をしないので、俺の中では、一目見た時にどきっとしていたのだが、それを悟られないように目を逸らす。
「私は強さが全てだと思っている」
冒頭から結婚相手に威嚇したような言い方を放つ。
「僕は勉強ばかりでスポーツや武術は全くできません。しかし、僕も剣術を会得したいのです。まずは体力作りからですが、ご指導いただけないですか?」
落ち着いた様子で婚約者は控えめに懇願した。
「ショウ、おまえが指導してやれ」
「はい、よろしくお願いします」
初デートとなるお茶会は、優しい婚約者が彼女に寄り添う形で終了した。
この男性ならば、冷酷なルイザとうまくやっていけるかもしれない。
俺は心のじりじりした感情を噛み殺すように、我慢を重ねる。
自分の気持ちを押し殺していくのが俺のためでもあり、ルイザのためでもある。俺は唇をぎゅっと噛み締めた。
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