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星空と浜辺
婚約者との食事は度々取り行われることがある。俺は、毎回仕事で王女の付き人として運転手として付き添う。帰るころはあたりは暗くなり、月がきれいで、澄んだ空にはきらきら輝く星々が輝く。星がまるで流れてきそうな夜空に王女は手を伸ばし、つかもうという仕草をした。意外とそういったところはおちゃめだ。もしかしたら、俺がここに来てから彼女が少しずつ変わったのかもしれない。
俺はルイザとこうやって星降る夜に一緒にいることができることを幸福に感じていた。俺の幸せは、彼女を守り、見守ることだと決意を固めていた。
「あの星、おいしそう」
帰り道に通る海が見える浜辺の脇に一時駐車した。
「浜辺を歩きたい」
ルイザが珍しく道草を提案した。それくらいならば、短時間ならばと思い、俺は快諾した。いつのまにか俺たちの距離は縮まり、お互いに下の名前で呼び合うくらいの仲になっていた。
「ねぇ、私が結婚したらさびしくなるでしょ?」
「ルイザが幸せならばそれでいいよ」
「ショウは結婚辞めてほしいとか言わないの?」
「そんなこと言える立場にないだろ」
彼女が転びそうになると、俺は彼女の手を思わず握った。しばらく、手をつないで海岸を歩く。俺たちはまるで本当の恋人のように同じ速さで歩く。
「好きな人いないの?」
「いるけど、失恋した」
「え? 誰に告白したの?」
「正確には告白はしていないけれど、フラれたんだ」
彼女は少し黙ると――
「ねぇ、私と結婚しない?」
冗談のように少し笑いながら言い出す。
「しない」
俺は大好きな女性の提案に対して即効、丁寧に断りを入れた。
「ショウのこと結構好きだけどね。私より強いし。勝ち逃げしないでよね」
「大丈夫だよ。一生傍で守るから。結婚なんてしなくても、大事な人を守ることはできるんだ。俺は一般人で身分が高いわけではない。国王になるなんて言ったら、国民全員が反対するだろうし、今の国王も反対するよ」
「駆け落ちしようか?」
いつも無愛想な王女が少しいたずらな顔をする。
手をつなぎながら、俺の顔を上目遣いで見上げる。
「それは、だめだ。ルイザが幸せになれない」
「やっぱり、好きな人のことが忘れられないの?」
「好きな人のことは結婚しなくても一生守るって決めたから。だから、君とは結婚はしないよ」
結婚することだけが愛の表現ではない。それ以外の形で俺は一生愛を語る。
そういう愛の形があってもいいと思うんだ。
君が他の人と結婚しても一生愛する。それは、俺が決めたことだから。
つないだ手に力を込めて俺は星空に誓った。
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