初恋

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

初恋

 鋭い大きな瞳、美しい長い金色の髪、華奢だけれど筋肉のある体。  この国の国王の娘、王女ルイザはとても強い。若干18歳の少女はあどけなさを残しながら、大人っぽい愁いを併せ持つ女性だ。この人に勝手に恋をしているなんてもちろん秘密だ。身分差も承知の上。  俺が城へ来たのは、17歳のときだから、もう1年になる。ずっと片思いだったけれど、初恋である滅多に笑わない冷たい王女と親しくすることができたことに後悔はない。  王女ルイザはとても強く、剣術では誰にも負けないと豪語できるレベルだ。自分より強い人間を求めて国中に募集をかけた。もうまわりにルイザよりも強い者がいなくなったからだったようだ。それは俺にとって千載一遇のチャンスだった。しがない一般人の俺が彼女と親しくなるきっかけができたのだ。  俺は、生まれた時から剣をおもちゃにして遊んでいた。そして、剣術指導をしている父親の元で剣術を学んだ。流派もさまざまなものを会得した。だからこそ、俺に勝る者は周囲にはいなかった。でも、ルイザのほうが強いことだってあるだろう。俺は念入りに自分の修行を行い、さらなる技術の向上を求めた。  王女ルイザの剣術相手を選ぶ選手権が行われた。俺は、意気込んで参加をしていた。なぜならば、ルイザがひとめぼれの相手だったからだ。というのは16歳の頃に街に視察に来ていたルイザのことをたまたま目撃したのだが、その容姿に釘付けになった。彼女の容姿は俺好みの冷たさを備えた雰囲気であり、顔立ちはとても美しかった。周囲にいる女性とは全く違う雰囲気に度肝を抜かれた。雷に射抜かれたかのような衝撃が走ったという感じだ。とにかく、そういう感覚は初めてのことで、俺はどうしようもなくその場に立ち尽くしていた。  初めての感覚に戸惑いながら、どうやったらルイザに近づけるのかと機会をうかがっていたのだが、そうそう会えるものではない。だから、一般人への剣術相手募集は青天の霹靂だったと思う。俺にもチャンスが巡ってきたのだ。これを逃す手はない。ただ、王女と話してみたい。彼女を見ていたい。それだけだった。  その後、無事選手権で優勝をした俺は、王女との再会を果たした。とは言っても、ルイザは俺のことを知らないわけで、一方的な再会と言わざるおえないのだが、初対面を果たすことになる。  しかし、目の前に現れたルイザは剣を振りかざし、挨拶もなく決闘をはじめた。初恋相手は相当な剣術好きな勇ましい人らしい。彼女の挨拶に剣で答え、心を通わせようとする。彼女の動きはリズミカルで速い。普通の人ではものたりないという理由がわかった。そして、華奢な細い腕にもかかわらず、振りは重い。  彼女が動くたびにゆれる髪の毛のしなやかさと艶に女性らしさを感じるが、目の前にいる女性は闘いにとりつかれた女神のようだった。顔立ちは美しいけど、気を抜いたら命の危険を感じるほどの鬼気迫る闘志は、もはや恋のコの字も感じることはできない。  俺は俊敏な動きでかわしながらルイザの隙を見入る。鍛錬した彼女にも隙がある。それは、俺にしか見えない隙だったのかもしれない。彼女の一瞬の空いた場所を突いて俺は試合に勝利した。これで、彼女とゆっくり話すことができるという期待がそのときは高まっていた。  すると、ルイザはくやしそうにしながら剣を俺の方に向けた。 「貴様、勝ち逃げすることは許さない。私が絶対に勝利するまで逃げるんではないぞ」  彼女の表情は冷たく、淡々とした口調で畳みかけてきた。  初恋の想い人との会話はこれが最初だった。やはり、遠くで見ているのと実際に会って接するのではだいぶ思い描いていた印象が変わるものだ。しかしながら、憧れの女性を目の前に俺は緊張とときめきが止められずに、ただ、立ち尽くしていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!