隕石はうけとるまでわからない

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「ふあぁ、おはよ」 「寝てたの!?」  ヨシアキくんは画面の向こうで、うーん、と大きく伸びをした。 「違う違う。瞑想」 「余裕だなぁ……」  呆れ半分、感心半分。 「だって、作業って言っても、システムがちゃんと動いてるか確認するだけだろ? そんなんずっとやってるより、本番に備えて体力温存した方が特だろ?」 「そうだけどさぁ……」 「どうした? 心配?」  すごく優しい声。  目を閉じると、ヨシアキくんが目の前で笑ってくれている気がして、ほんのりと暖かな気持ちになった。優しい声に、自分の気持ちを少しだけ見てもらいたくなる。 「うーん、心配、はいっぱいある。ちゃんと計算通りに流星を観測できるか……とか。でも、それだけじゃなくて……。今更なんだけど……、なんか、寂しいなぁって……」  わかってもらいたい。  でも、うまく言えない。  ヨシアキくんは少しだけ首をかしげ、流星のようにすっと視線を動かしてここじゃないどこか遠くを見るような目つきのまま微笑んだ。 「俺さ、むかーし、見たことあるって言ったろ?」 「あぁ、家族と一緒にって」 「そ。こっちに来てすぐのとき。もうちょい手前にあった観測地点から」  外を眺めながら、ヨシアキくんがしみじみと言った。窓の向こうの空はすっかり暗くなり、これ以上ないくらいに澄み渡っていた。銀河の白く遠い輝きがまたたき始めていた。  私たちの夜がもう始まる。 「綺麗だった?」 「それが全然覚えてない」  脱力する私に、にんまり笑って見せてからヨシアキくんは続ける。 「その時さ、父さんが言ったんだ。星の生命もあっけないな。だけど、それがいい。人生みたいに綺麗だなって」  ヨシアキくんの声だけが深く響いて広がっていく。 「寂しくなって当然だよ。いろんな人がこれまでたくさんのことを考えて、計算して、計算通りになんてなかなかいかなくて、ずいぶんいっぱい諦めて、だけど今、俺たちはここにいる。気づいたんだけどさ、俺が昔見た景色のことをあんまり覚えていないのは、寂しさを忘れるために、わざと新しい場所に夢中なふりをしたんだなって。でもその気持ちは忘れちゃダメなやつだった。寂しいとか喪失感は次につなげる原動力になるんだよ。だからこのプロジェクトに参加したんだ。今はまだ早いかもしれないけど、きっといつかみんなが俺たちの記録を必要とするときがあるなって」 「でも、私なんて何にも知らないんだよ」 「大丈夫だよ。半端な思い入れがあるより、まっさらな気持ちで記録できる方が重要だよ。むしろそっちの方が需要が多い」  窓の向こうに光る星ぼし。  冷たい空気の中で、いくつかは美しい軌跡を描いてあっという間に流れ去っていく。  儚い。  けれど、きっと誰かを魅了した星の軌跡。
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