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一通り説明を受けた私たちは、夫の希望通り役所前で写真を撮って別れた。一軒家のリビングに落ち着いた私は、スマホを開く。
「ちょっと、ホントにこれだけ?」
笑っちゃう。
大学の同級生で、「未来予知者だって古い友人を大学に紹介した」なんて自慢してたやつがいたけど、これはホンモノなのだ。迷わずチェックを入れて、目を閉じる。
―――ああ、彼は上手くやってくれたらしい!!
見えた映像に酔いしれる間もなく、荷物をまとめる。当面の生活資金源も、忘れない。あとはこのスマホを、
ばりん、だったか、ぐしゃっ、だったか。
「早くしろ、時間がない」
低く腰に響くこの声を聞ければ、そんなことはどうでもよかった。
「でも、怪しまれない?結婚数分後に夫を亡くした妻が、同日突然姿を消すなんて」
自分で考えておきながら、恐れたのか。そうじゃない。
「問題ない」
爆撃犯と思われるかもしれない男は、人質として一般女性を誘拐して逃走。彼女は偶然、大型ビルの爆破によって夫を亡くしていた。
「違うか」
目と口をガムテープで塞がれた分、耳は音をよく拾う。腕を背中に回して縛り、足首もガムテープで巻いてしまう。
歓喜に震える。ああ、ダメ。欲しい。
「本当は、出来心で作った浮気相手と結婚までもつれ込んだことを後悔しての事件計画」
いけない女性。
「んんんーっ」
べたつく口元と、やり場のない熱で、ダメになりそうだ。
「男の方も、人のことは言えないがな」
もう、荷造りの音しか聞こえなかった。
サイレンを響かせる緊急車両を見て慌てる住民が、反対方向に走り去る中古車に気を留めることはなかったという。
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