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βの僕には、何の取り柄もない。 父と同じ視察団だった坪井啓介の息子、祐輔はαだ。 幼い頃から、祐輔には素質──島民の子供達を取り纏めて引っ張っていく統率力があった。 だから祐輔がαだと判っても、別段驚きはしなかった。 祐輔は監獄の看守をしている。 凶悪犯罪者達を相手に、怯むことなく統制し、労働現場まで牽引する。 尻を触られ、揶揄われても何もできない僕では決して務まらない、立派な仕事だ。 それに引き換え、僕はといえば……横峯の雑用を手伝う事ぐらい。 『英雄の残した子』が、こんな成れの果てだ。 本土へ帰らずここに留まった島民達は、さぞかし裏切られた気分だったに違いない。 「ペニシリンはまだあったかな?」 「……いえ、もう殆ど残ってないです」 備品ノートをパラパラと捲り、その残量を横峯に報告する。 「じゃあ、次の便で取り寄せて貰おうかな」 「……はい」 席を立ち、医務室を出ようとドアを開ける。 ……と、その向こうからヌッと現れた人影と、危うくぶつかりそうになった。 「……わぁっ!」 「な、なんだよ。……驚いたのはこっちだ」 見上げて見れば、それは幼馴染みの祐輔だった。 ピシッと着熟した制服。キリッと引き締まった顔。 威厳と気迫を纏うオーラは、αそのもの。 これが囚人達を統制する力なのか……と、まざまざと見せ付けられる。 祐輔は眉間に皺を寄せ、至極真面目な顔をしたまま横峯のいる部屋へと入っていく。 「じゃあ、葵くん。宜しくね」 横峯が柔和な笑顔を僕に向け、手をひらひらとさせる。 対極的な雰囲気の二人が、この後どんな会話を交わすのだろう…… そんな興味を抱きつつ、僕はこれから向かうお使い先に足が鈍るのを感じていた。
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