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哀愁
「どうしてここに?」
すると露木は、妙な顔をした。
「どうしてって、今日は彼女の月命日じゃないか。君もそれで来たんじゃないのか?」
――知らなかった。
中也は、思いがけない偶然に驚いた。
「先生は、毎月来られるんですか?」
「亡くなってから、一度も欠かしたことは無いな」
露木が墓参りを終えた後、二人は一緒に霊園の中を歩いた。
「もう秋も終わりだな」
不意に、露木が言った。
「はい……」
「秋は、私が一番好きな季節だ。だから毎年、終わるのが切ない」
中也は、はっとした。かつて白秋は、母親についてこう語っていた……。
『静かな人だったよ。秋が好きでね。僕らの名前も、そこから取ったんだ』
――もしかしたら、本当に秋が好きだったのは……。
中也は苦しい程の切なさに襲われ、露木の横顔を見つめた。
いよいよ、京都へ旅立つ日が迫って来た。そんなある夜、中也は士郎を呼び出した。
「今までありがとう。士郎と一緒にいると楽しいけれど、やっぱり友達としてしか見れないんだ。もう俺のことは忘れて、誰か他の人を探してくれ」
士郎は、すぐには納得しなかった。
「遠距離でも構わない。俺はこれまでどおり待つ。待つだけなら、自由だろう?」
「ごめん。でも自分でも、もう答は分かっているから。いくら待ってもらっても、士郎をそういう意味で好きにはなれない」
長い沈黙の後、彼はふっとため息をついた。
「分かってはいたんだけどな。お前らの間には、切っても切れない絆があるって」
別れ際、士郎は中也の頬にキスをした。
「最後に、これくらいいいだろう?」
「今までありがとう」
士郎は、黙って笑った。
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