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はなむけ
出発当日、秋江は東京駅まで見送りに来てくれた。中也は、彼に向かって頭を下げた。
「秋江先生。では今後も引き続き、ご指導よろしくお願いします」
すると秋江は、一瞬黙った。ややあって、彼は唐突に言った。
「大城さん。もっと強くなりたいと思いますか」
「はい、勿論です」
「だとすれば、あなたに欠けているものが一つあります」
「……」
「大城さん、あなたは才能もあるし、人一倍努力もされています。でも、碁というのは一人でするものじゃない、必ず相手がいます。相手を何が何でも蹴落として勝ちをもぎ取る気迫が、あなたにはどこか欠けています。それは、性格もあるでしょう。大城さんは、優しい性格だから。しかし、強くなりたいのであれば、碁盤の前ではその優しさを捨ててください」
中也は、秋江の目を見て頷いた。
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