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セカンド・プロポーズ
「君の友達には、お節介な人が多すぎるんだよ。恨むんなら、自分の人徳を恨むんだな」
白秋は可笑しそうに笑った。中也は、信じられない思いだった。
「――まさか、それで引退を決めた?」
「当然だろう。僕の世界は、君を中心に回っているんだから。――それに、向こうなら同性婚も認められているだろう? もう一度、君にプロポ―ズしようと思って」
「何で俺の台詞を取るんですか。この大会の後、俺の方からプロポーズする予定だったのに」
中也は悔しがった。
「でも、本当に良かったんですか? せっかく七冠の座に着いたのに」
すると、白秋の顔が陰った。
「七冠の座なんて、惜しくも何ともないさ。あれだけ欲しかったタイトルなのに、いざ獲っても少しも嬉しいと感じなかった。――君が傍にいなかったから」
彼は、中也をじっと見つめた。
「あの頃の僕は、本当にひどかった。父を意識しすぎて、本当に大切なものが見えなくなっていたんだ。君を束縛したり、当たったり、挙句には、囲碁からも引き離して。あれでは父と同じじゃないかと、後になって気づいた。君が出て行ったのも当然だ。だから君が許してくれるまで、酒を断つことに決めたんだ」
――願掛けとは、このことだったのか。
中也は、いつかの秋江の話を思い出していた。
「中也。僕を許してくれるか?」
「許すも許さないもありませんよ。愛してるんだから」
中也は、そっと彼の手に自らの手を重ねた。
「それに俺の方も、あなたに謝らないといけないんです」
中也は、康成の引退の理由を白秋に告げた。
「黙っていてすみません。康成先生から、口止めされていたんです。でも、あなたも引退した今なら、話してもいいかと思って」
「……」
「俺がこんなことを言える立場じゃないのは分かっています。でも敢えて、言わせてください。一緒に、康成先生のお見舞いに行きましょう」
「――君が言うなら」
白秋はしばらく逡巡していたが、ようやく首を縦に振った。中也は、ほっと胸を撫で下ろした。気づけば、前夜祭の開始時刻が迫っていた。
「そろそろ行かないと」
白秋は、部屋から出て行こうとする中也を黙って見送った。しかし、中也がまさにドアノブに手をかけた時、白秋は中也の肩に手をかけ、振り向かせた。壁に押し付けられ、白秋の腕の中に閉じ込められて、中也は体温が上昇していくのが分かった。懐かしい、彼の匂いがする。彼を受け入れてしまいたい誘惑に、心は激しく揺らいだが、ぎりぎりのところで理性が勝った。
「駄目です」
そっと押しとどめると、白秋はそれ以上強引には迫らなかった。
「この大会の結果次第と、決めているので。どうしても、当たりたい棋士がいるんです」
すると白秋は、察したように頷いた。
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