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朝食を食べ終わったふたりを、玄関で見送る。
車で来た恵は、幸三と海沿いをドライブしながら帰ると言う。駐車場まで見送るのは、春人の仕事だ。
「佳乃さん、お世話になったね」
幸三の声に、佳乃は頭を下げる。
「素敵な一夜を過ごさせてもらったよ。かわいいたぬきさんにもよろしく」
「はい。またのお越しをお待ちしております」
佳乃の前で、幸三が優しく微笑んだ。
「女将さん、娘の分まですまなかったね」
「とんでもございません。お元気でお過ごしください」
「女将も、お元気で」
杖をついた幸三がゆっくりと歩き出す。恵は女将と佳乃に手を振ると、幸三の後ろをそっとついていく。
べったりと寄り添うわけではないけれど、恵は恵なりに、年老いた父親を見守っているのだろう。
佳乃は恵に手を振り返し、親子の姿が見えなくなるまで見送った。
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