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眼鏡
その出会いは、眼鏡ショップだった。
筋肉は鍛えられるが目は鍛えられない。
強い日差しに私の目は負けてしまう。
だからサングラスが欲しかった。
どうせ買うならよいサングラスが欲しくなった私はちょっといい眼鏡ショップへと訪れた。
ああ申し遅れた、私は筋肉を愛し筋肉に愛される男、肉盛愛染だ。
身長は180㎝と高身長なのが自慢だ。
とりあえず日差しが防げればなんでもいい、と思っていた私は適当なサングラスを手に取った。
……上手くかけれない。
鏡の中にいる男はとても不格好だ。
うむ、つまり私にサングラスは似合わな――
「お兄さん、それ、お兄さんの顔に合いませんよ」
「なに?」
「お兄さんの輪郭ならこっち」
そう言って、私より10㎝以上も背の低い男子学生が私にサングラスを差し出した。
焦げ茶色の猫毛が特徴的な、眼鏡をかけたその学生は感情が伺いづらい表情をしていた。
とりあえず受け取りかけてみた。フィットした。
「おお……!」
「ね?」
首を傾けて笑う学生。
何故だろう、私の身体が妙に滾った。
「どうだろう!? この細めのサングラスは似合うかい!?」
もっと反応を見たい衝動に駆られた私は別のサングラスをかけてみた。
すると、彼は「ぶはっ」と吹き出し、顔を横にそむけ、拳を口元に添えて震え始める。
「ぶ、くく……あ、すんません。いや、お兄さんめっちゃムキムキやからサングラスつけるだけでおもろくって……いや、ようにおてますよ。フフ、それにしたらええんとちゃいます?」
そう言って笑いが堪えられない様子の笑顔はまるで花が咲いたようで。
こんな可愛い男の子がいたなど私はこの人生の中で知らない。
なんと、なんと可愛いのか。
低いトーンの声は間違いなく男の子だ。女の子じゃない。
背だって高めだ。
決して可愛い背丈じゃない。
だが、私より低い。
私より顔がちっちゃい。
何より、笑った姿が眩しいぐらいキラキラとしている。
「ほな、僕はこれで」
そういって背を向ける彼の腕を私は思わず掴んでいた。
「……なんですか?」
あぁ
訝し気な表情も、可愛らしい。
これはもう、告げるしかない。
「私は君を愛してしまったようだ!!」
普段から声の大きい私の声は、眼鏡ショップ内だけではなく外を歩く人々を振り向かせるほど響いた。
しばしの沈黙、そしてヒソヒソとした声の後。
「……通報します」
彼の冷え切った視線と冷たい声が、私の心臓をぐっさりと刺した。
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