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Episode1
「流れ星が消える前に三回程お願いしたら、その夢は叶うんだって……」
艶々したショートボブに、丸みを帯びた大きな瞳をキラキラさせてあなたは私に教えてくれたね。だから私は夜になると、こうして秘かに夜空を見上げていた。そして一生懸命にお祈りしたの。
『大好きなあの子の傍にずっといられますように……。そしてあの子の力になれますように』
オレンジの夕日が空に溶け込み、薄紫色の羽が広がる。それから深い青に、透き通った藍色に…。キラリと星が一つ、二つ、三つとその煌めきに身を震わせていく。濃紺の空に、数多の星が咲き乱れる頃、キラリと一際輝きが流れる。
その瞬間を逃さず願うのだ。来る日も、来る日も。曇り空や雨の時、雪の時は只管祈りを捧げて……
流星が消える迄に三回お願いするのは至難の業だけれど、毎日毎日お願いしていたら少しずつコツが掴めてきたわ。
ミディアムボブに髪が伸びた頃のあなたは、セーラー服がよく似合って。
「お星様にお願いする時は、『……ように』と言う言い方をすると叶いにくいんだって」
と私を見上げた。何だかとっても真剣な面差しだったわ。あら? じゃぁ何てお願いごとをすれば良いのかしら?
『あのね、「……します!」の宣言か、「……しました!」って過去形で言い切るのが良いんだって』
サヤサヤと枝にまとうさみどりの葉が風に揺れる。あなたの髪も、サラサラと流れる。
「あらあら、『……ように』だと、どうなるの?」
『なんかね、「……ように」だと、脳に願い事が未完成の状態がインプットされて、そのままの状態を保ちやすいんだって。潜在意識に働きかけると、無意識に感情も体もその通りに動いていく傾向があるから。宣言するか過去形で言い切るのが良いみたい』
「そうなのね! じゃあ、私も今晩から流れ星を見つけたら宣言、または過去形で言い切るようにしてみるわね」
そして幾日か経って夜空に星が流れたら……
『大好きなあの子の傍にずっといられるようになります! そしてあの子の力になります!』
と宣言したの。
髪が肩にかかるくらい伸びたあなた。艶のある潤んだ瞳、恥じらって頬を薄紅色に染めて。そんな表情も出来るようになったのね。
「ね、聞いて……」
私の腰にもたれかかるようにして囁くあなた。いいわよ、どうしたの?
「今日ね、好きな人とお話出来たの」
初夏の爽やかな風が、清々しい緑の香りを運んで。枝に生い茂った葉をサヤサヤと揺らす。
『そう! 良かったわね! きっと、上手く行くわ。焦らないで、ゆっくりと仲良くなっていってね』
「……焦らないで、じっくりと信頼関係を築いていきたいな……」
『大丈夫よ。彼、良い人そうで安心したわ』
「ふふふふ……」
あなたは照れ臭そうに背中を私の腰に預けた。
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