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「……残念だ」
スマホをポケットに手早く突っ込み、左の男の鳩尾に肘鉄をお見舞いする。グッと呻いてよろめいた隙に、異変を察知して戦闘態勢に入った右の男の顎に思い切り蹴りを叩きこんだ。ガツン、と鈍い音。硬いコンクリートに倒れこんだ男を横目に、次いで左の男の後頭部に拳を埋め込む。脳を揺さぶられた男は、えずくような声をあげたまま、地面に倒れて気絶した。
「っ、お前……」
「悪いが、報告も抵抗もさせない」
顎を押さえてよろよろと起き上がる男の腹に膝を入れる。ただの少女だと油断していた男は、目を見開いてそのまま気を失った。
あぁ、呆気ない。屈強そうに見えたから、一撃くらいは喰らってやるつもりだったのに。正直、体格さ的にはダメージを喰らってもおかしくなかった。
ただ、この男たちは甘すぎたのだ。その優しさが仇となるとは、可哀想な奴等だ。
「な、奈雪、すごいね……」
門を閉じる南京錠に手をかけると、背後で引きつった声が聞こえた。
「思ったよりチョロかった。引いた?」
「ぜ、全然……」
「思い切り引いてるじゃん。ここで待ってれば?」
「いや、気になるから着いてく」
「そう。勝手にしなよ」
独自開発のピッキングツールを駆使して鍵を開ける。ほどなくしてガチャンッと音が鳴って南京錠が地面に落ちた。Violetがセキュリティを切ってくれているお蔭で、門を開けて通っても警報は作動しないだろう。監視カメラも今は起動していないだろうから、見るからに関係者ではない一般人が入っても何ら問題ではない。
ただ、今頃この屋敷内はパニックに陥っているだろう。突如セキュリティの全てが機能しなくなっているのだから。もしかすると、侵入者に警戒をして戦闘態勢に入っているかもしれない。こちらも少しは慎重に行く必要がありそうだ。
「玲緒、行くよ」
「う、うん……」
一応声をかければ、小さな声が返ってくる。正面玄関へと続く石のタイルの上を歩きながら、周囲の様子を窺う。
小鳥の囀りが聞こえる日本庭園。横に長い二階建ての屋敷には、窓が幾つもあるが、中の様子がよく見えない。時折、バタバタと忙しない足音が聞こえるくらいだ。
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