第1章:殺人鬼と幽霊

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 どうやら、外に警戒を向ける余裕はないらしい。これならば、正面から侵入しても気が付かれないのではないかとさえ思ってしまう。  さすがに正面からは避けるが、そうなるとどこから入るのがベストだろうか。窓は開いているから、身軽なのを活かして高めの窓から入ってもいいのだが…… 「あ、奈雪、ここの部屋誰も居ないよ」 「はっ?」  石のタイルから外れ、植えられた木々たちの陰を歩き始めた時、玲緒の声が頭上から降ってきた。間抜けな声を零しながら上を見れば、宙を浮遊して室内を覗き込む玲緒が窓を指さしていた。 「……おい」 「たぶんだけど、ここ物置だね。ざっと見た感じ、近くに人はいなさそう。静かだからね」 「そこから入れって?」 「そういうわけじゃないけど、一番手っ取り早いかなぁとは思う。あ、でも、二階だからなぁ……」  玲緒が空中で腕を組んで眉根を寄せた。  私は二階にある小さな窓から、自分のいる位置を辿る。足場になりそうなのは、地面に埋め込まれた灰色の岩の数々と、一階の屋根くらいだろうか。壁を伝うパイプもありだろう。少々高さがあるが、岩を思い切り蹴って屋根に両手が届けば、あとは腕の力で上がれるはず。  問題はそこからだ。身長の低い私は、どう見ても二階のあの窓に届かない。垂直な壁を歩く芸当は持ち合わせていないし、フックショットのような便利な道具を持っているわけでもない。こうなるならば、調達しておけばよかったなと今更後悔する。  ひとまず、二階には上がろう。  深く息を吸い込んで、感覚を研ぎ澄ます。整った草むらを思い切り蹴って、ゴツゴツとした岩を足場にする。タッと岩を蹴ってジャンプし、両の手を瓦屋根に伸ばした。なんとか届いた両手に力を込めて、体を引き上げる。一階の屋根に降り立って立ち上がれば、目を輝かせて拍手をする玲緒が居た。 「すごいすごい! ねぇ、どうやってやった!?」 「見たまんまだよ。それより、ここからどうするかだな……」 「あ、ちょっと待っててね」  子供のように無邪気にはしゃいでいた玲緒は、ふよふよと浮きながら一階へ下りていく。何か見つけたのだろうかと首を傾げていれば、彼は何かを持って二階へと戻ってきた。彼の両手には脚立が握られている。 「どこで見つけてきたの」 「さっき外に置いてあるなーって思ってさ。高さ足りないけど、奈雪の跳躍力なら届くと思うよ」 「……まぁ、これだけあれば十分かな」  窓までには距離があるが、飛べばなんとか届きそうな距離だ。脚立を受け取って、不安定な屋根の上に置く。 「押さえていようか?」 「そうしてくれると助かる」  玲緒が脚立を支えたのを確認して、私は注意しながら脚立を上る。大きめの脚立だったらしく、だいぶ高さを稼ぐことができた。  そしてそのまま跳躍し、半開きの窓に手をかける。完全に窓を開き、室内へと転がり込んで着地をすれば、床に溜まっていたであろう埃が舞った。
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