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バァンッと、乾いた銃声が鳴り響く。
心地よい反動が手を伝い、全身に流れ込んでいく。カラン、と音を立てて転がった薬莢は、早速新たな我が家に死体が生まれたことを告げた。
……そう、思っていた。
「え、なんで……?」
私は目を見開いた。
今、確かに私は引き金を引いたし、銃弾が発射された。その感覚はあったし、この目で銃口が火を噴くのも見ている。
ましてや、銃の扱いに慣れた私がこの至近距離で外すことはありえない。しかも、撃たれた人間が血をまき散らさないなんてことが、ありえるのだろうか。
そもそも、脳天を撃ち抜かれた人間は、大概の場合は即死するものだろう?
「なんでお前、死なないんだ……?」
疑問と気味の悪さから、声が震えた。
「だから待ってって言ったのに……」
はぁ、と溜息を吐いて、男は額に手を当てる。私が混乱から殺意を消失させてしまったことに気が付いたのか、男は薄らと涙の膜が張った青い目で私を見つめた。
「アンタ、銃弾をどうやって……?」
「あー、なんというか、僕の体をよく見れば分かるんじゃないかな」
銃を下げながら問えば、男は苦笑する。苦々しい顔で逸らされた瞳の意味は分からなかったが、その言葉に従って私は男の体を改めて観察した。
突然のことだったから、顔の大まかな特徴しか認識できていなかった。先程私が撃ち抜いたはずの頭から順番に、男の体を目でなぞっていく。
そうすれば、とんでもないことに気が付いた。壮絶な光景などいくらでも見てきたはずなのに、一瞬だけ血の気が引いて胸の奥が冷えた。
なぜならば、男の足が明らかに透けていたからだ。
「……アンタ、幽霊?」
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