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 ある日、太陽神様が再びモニュメント前に足をお運びになると、民のうちの一人が声をかけてきた。 「太陽神様、太陽神様。(わたくし)にはわかります。あのお言葉は、決して不吉なものなどではございませんよね。もしかして、何か眠りについてお悩みでいらっしゃるのでは?」 「そうそう、そうなのだよ。話がわかるな。汝、名は?」 「私めは正波仁(まさはに)と申す陽術師(ようじゅつし)です。眠りのことでございましたら、私めがお力になれるやもしれませぬ」 「そうか、そうか、それはいい。正波仁、我について参れ」 「はっ」  太陽神様は、正波仁を連れて神殿の中にお戻りになった。  もちろん日奈神子は怪しんだ。  太陽神様に伴われているのは、背が高く細身で、顔の痩せこけた男。顎髭を少しだけ生やして、旅人風の軽装に身を包んでおり、一般的な観光客とも正式な来訪者とも思いにくい姿だった。 「太陽神様、そちらは」 「陽術師の正波仁だ。怪しい者ではない」 「本当に陽術師なのでしょうね? 陰術師だったりしないでしょうね?」 「そんな筈はない。正波仁は陽術師だ」  太陽神様は正波仁のことを何もご存じないが、頑として陽術師だとお譲りにならない。 「恐れ入ります。ご心配もごもっともでございます。よろしければ私の念色(ねんしき)をご確認ください」  そう言われて、日奈神子は正波仁に手をかざし、念色を探ってみた。その色は、とても澄んだ明るい黄緑色だった。 「正波仁よ、疑ってすみませぬ。そなたはまさしく陽世民(ひのよのたみ)。私日奈神子、しかと確認申し上げました」 「恐れ入ります」 「だから言ったであろう」  太陽神様は、たいそうご満足なさったようだ。  
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