8人が本棚に入れています
本棚に追加
二
ある日、太陽神様が再びモニュメント前に足をお運びになると、民のうちの一人が声をかけてきた。
「太陽神様、太陽神様。私にはわかります。あのお言葉は、決して不吉なものなどではございませんよね。もしかして、何か眠りについてお悩みでいらっしゃるのでは?」
「そうそう、そうなのだよ。話がわかるな。汝、名は?」
「私めは正波仁と申す陽術師です。眠りのことでございましたら、私めがお力になれるやもしれませぬ」
「そうか、そうか、それはいい。正波仁、我について参れ」
「はっ」
太陽神様は、正波仁を連れて神殿の中にお戻りになった。
もちろん日奈神子は怪しんだ。
太陽神様に伴われているのは、背が高く細身で、顔の痩せこけた男。顎髭を少しだけ生やして、旅人風の軽装に身を包んでおり、一般的な観光客とも正式な来訪者とも思いにくい姿だった。
「太陽神様、そちらは」
「陽術師の正波仁だ。怪しい者ではない」
「本当に陽術師なのでしょうね? 陰術師だったりしないでしょうね?」
「そんな筈はない。正波仁は陽術師だ」
太陽神様は正波仁のことを何もご存じないが、頑として陽術師だとお譲りにならない。
「恐れ入ります。ご心配もごもっともでございます。よろしければ私の念色をご確認ください」
そう言われて、日奈神子は正波仁に手をかざし、念色を探ってみた。その色は、とても澄んだ明るい黄緑色だった。
「正波仁よ、疑ってすみませぬ。そなたはまさしく陽世民。私日奈神子、しかと確認申し上げました」
「恐れ入ります」
「だから言ったであろう」
太陽神様は、たいそうご満足なさったようだ。
最初のコメントを投稿しよう!