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渚の泡沫
窓から射し込む陽光は白いレースのカーテンを通りフローリングの床に光のフレームをつくりだした。
その白いフレームの中に影によって規則正しい複雑なレース模様が描かれている。
微かに吹いている風によってカーテンは揺らめき、それに合わせて揺れるレース模様の影の様にどこか遠い波の音を感じた。
レース模様を目で追っていくとそこには横たわる君。
黒く長い髪が流れるように床に広がっている。
それとは対照的に真っ白なワイシャツとそれに負けないくらい白い肌は陽光によって透き通るように輝き、その上にレース模様のベールがかけられる。
目は閉じられ、僅かに開いた口からは微かに吐息を感じる。
その様はどこか透明で儚く、まるで泡沫のごとく消えてしまうのではないか……そんな胸のざわめきを感じる。
彼女の確かな存在を感じたくて手を伸ばすとその黒髪をそっとすくい上げた。髪は何の抵抗もなく指の間からハラハラと零れ落ちていく。まるで僕の腕の中からすり抜け、消えてしまうかのように。
彼女のことを見つめていると、視線を感じたのか彼女がそっと目を開いた。
そして僕のことを見上げると口を開く。
「波の音が聞こえたの。それから……あなたの声」
そう言ってやわらかく微笑んだ。
彼女の頬に触れると、その手に彼女の手が重ねられた。
確かな温かさを噛みしめる。決して手放さないように。
静かな午後の陽だまりの中
遠く波の音が聞こえる。
『渚の泡沫』
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