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読者への挑戦状
‘’あの日‘’から何年経っただろう。
確かに‘‘あの日’’は存在した。
だがしかし、今の俺に全貌を伝える術はないのだ。
もし、記憶を誰かと共有出来たなら…このあまりにも数奇な体験は、後の世に伝わるのだろうか。
それともただの妄想だのと小馬鹿にされ、一笑に付されるのだろうか。
俺は追憶の糸を手繰る。
それは記憶の海の底の、ずっと底にある真実ーーー
✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼
【第一章】漂着
平成も後期に差し掛かかる、春先のまだ肌寒い時期。
(やばい、流された)
ゴムボートで海釣りに出ていた俺「瀬田タカシ」は、潮に流されて北も南もわからぬ海の真ん中に出てしまった。
「え、何これ、漂流して死ぬの俺?!まだ31ですけど?!」
とにかく助けを呼ぼうと携帯電話を取り出したが、あいにくの圏外。
懐中電灯でSOS信号を出すにもまだ日は高く、誰も気づかないだろう。
「はー、こんなところで水死体とか笑えねーわ…」
数時間は彷徨っただろうか、半ば諦めを含んだ声で吐き捨て、仰向けで空を仰ぐ。
すると、1本の煙が視界の端に確かに映った。
「島…か?視力2.0も伊達じゃねーな。よし、あっちに向かうか!」
運が良かった、と確信した。
ーーそう、その時は。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
煙を目指すと、小さな島に漂着した。
(こんな島、地図にあったかな?)
ゴムボートを岸辺に上げ、降りて人気を探す。
「すみませーん!誰かいますか!」
ビーチサンダルで歩きながら何度か声を張り上げると、ショートパンツの小柄な猫目の女の子が駆け寄って来た。
「誰やアンタ?ミヤビの知り合い?」
「?…いえ、海釣りしてたら流されてしまって…煙を見つけてこちらに向かいました。ああ良かった、人がいてくれて助かった…」
「そら大変やったなぁ!アタシはカエデ!
今な、ダチの島でパーティーやっとったとこや!
体も冷えたやろ、今みんなのトコ案内するからついてきてな!」
細身で身軽な彼女は踵を返すと、島の中央まで案内してくれた。
(本当に良かった…それにしても可愛くていい子だな…
しかし、こんな島を所有する友達って…)
辺りを見渡しながらしばらく道なき道を歩くと、数名の男女がコテージの前でバーベキューをしてる姿が見えた。
「みんなー、やっぱ人の声やったわ!海釣りで流されたんやて!」
カエデは人の輪に駆け寄ると、俺の方を指差す。
「すみません、俺、しがないサラリーマンやってる瀬田タカシといいます。仙台沖から来たんですが流されてここを見つけました…
何やらパーティーの最中だったようなのにお邪魔してしまってすみません、良かったら本土にお帰りになるときにご一緒させていただければと…」
俺は皆の前で頭をペコペコと下げて事情を話した。
すると、自分より少し年上と見られる男性が歩み寄る。
海でのバカンスには似つかわしくない、スーツ姿の容姿端麗な男性だ。
「それは大変でしたね…私達は明後日に島を出る予定なんです。ですが今すぐお帰りになりたければ船を呼びますけど…」
「あ、いえ、しばらく休暇を取ってますしそんなお手を煩わせるわけには…」
「なら兄(あん)ちゃん、俺らと楽しもうぜ!」
テーブルの前でビールを飲む男が手を振ってくる。
「俺らはミヤビの主催したパーティーで楽しんでたとこだが、ヤローがさ、畏まった奴と辛気臭ぇー奴しか居なくてよ!なぁ、アキラ?」
「し、辛気臭くて悪かったな…僕はこういう場が少し苦手なだけだよマコト」
目の前の男二人は至って対象的だ。
マコトと呼ばれた男は、一言で言えばチャラ男。
肌は浅黒く、偏見だが恐らくサーファーか何かだろう。
一方のアキラと呼ばれた男は、見るからにオタク。
少し前に流行った「電車男」という感じだ。
メンバーは以上だろうか?
ということは、あの執事みたいなスーツの男性が「ミヤビ」?
するとコテージが開き、車椅子でテーブルに近寄ってくる者が居た。
「ようこそ島へ、私たちはあなたを歓迎します」
ウィスパーボイス…というのだろうか、囁くような声。
誰が見ても正真正銘の美少女がそこに居た。
ーーまるで令嬢のような、長い黒髪の美しい少女。
俺はしばらく目が釘付けになった。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
「ミヤビ!体調は大丈夫なん?無理すんなや!」
カエデが走り寄り、ミヤビの肩を持つ。
「カエデ、心配かけてごめんなさいね…少し冷えただけ、もう大丈夫よ」
「車椅子、私がお持ちしますよ。」
「セツナさん、ありがとうございます。」
セツナと呼ばれたのはあの端正な顔のスーツの男性だ。
車椅子を押す仕草が余りにも手慣れている。
おそらく、彼はミヤビの執事なのだろう。
令嬢に執事、とても絵になっている。
「すみません、貴重なイベントを邪魔してしまって…
えと、皆さんお友達ですか?」
するとカエデが俺の前に立ち、ニコッと笑う。
くるくるとよく動く子である。
「せやで!セツナさんも含めてサークルの仲間や!みんなの紹介したろか!
まずあっちのスケベそうなチャラ男がマコトや!」
「おい!誰がチャラ男だ!
タカシさんだっけ?マコトだ、21歳!よろしくな!」
マコトを初めてマジマジと見てみてると、薄手のシャツにはしっかりとした胸板があり、その肉体は相当鍛えていると思われた。
「んで、こっちのインケンそーな男がアキラや!見た目インケンだけど結構優しいんやで!」
アキラは相変わらず下を向いたままだ。
メガネにキノコカット、メガネの奥の目はよくわからない。
「アキラです、今年20歳(ハタチ)になりました。
あんまり喋れません…すみません。」
「は、はぁ、よろしくお願いします…」
こういうタイプの人間は確かに何人か居るが、何て返せば良いのかわからなくて困る。
「あの二人がミヤビにセツナさんや!令嬢と執事!
まぁ見たまんまやなぁ。」
二人に目を向けると、ミヤビがペコリと頭を下げた。
つられて俺も頭を下げる。
セツナさんはミヤビの身なりを軽く整えたりと、甲斐甲斐しく世話をしていた。
「んで、アタシがカエデ!ピチピチの19歳!
タカシくんめっちゃ好みやから優しくしたるわ〜」
「あ、ありがとう…」
腕をギュッと掴まれ、太陽のように眩しい笑顔に少し惑わされそうになったが、俺は理性でグッと堪えた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
しかしこのメンバー…
「何か」に違和感があるのは何故だろう。
だけど
一体…何が…。
ザワ…と木の葉が舞った。
✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼
【第二章】第一の殺人
「セツナさん!タカシくんの部屋ってここでええの?」
「はい、空き部屋ですから好きに使ってください。」
カエデとセツナがコテージの中へと案内をしてくれて、俺はとりあえずベッドに腰を下ろす事ができた。
(さっきまで漂流してたのが嘘みたいだな…)
肉体と精神の疲れがどっと押し寄せ、大きなあくびが出る。
しばらくぼーっとしていると、お腹がグゥーと鳴った。
(厨房で何か貰ってくるか…セツナさんに頼めばいいのかな。
金はあんまり持ち合わせがないから本土に帰った時に纏めて払おう。)
ベッドから立ち上がり、ドアノブに手をかけようとした瞬間、バンッとドアが開いた。
「痛って〜!あ、マコトさん?どうしました?」
「悪ぃ悪ぃ!セツナさんから頼まれたんだよ。
ほれ、サンドイッチとコーヒー。」
マコトが持っているトレーには美味しそうなサンドイッチと、湯気が立ったコーヒーが乗っていた。
「あっ、ありがとうございます!」
「いいって!それよか敬語もやめね?タカシさんは年上だろ?」
「…あぁ、うん。そうだね。
マコトくん、良かったら中に入って。少し話を聞きたいな。」
「?いいぜ…」
気さくに話しかけてくれるマコトに気を許し、顔が綻ぶ。
自然とベッドに二人で横並びに腰掛け、コーヒーに口をつけた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
「カエデちゃんが皆のことを「サークル仲間」って言ってたけど、マコトくんたち、年齢的に大学のサークル仲間?セツナさんはミヤビちゃんのお世話係って感じで…」
「…………ん、まぁな、そんなとこ。」
若干間があったのは気になったが、サンドイッチを頬張りながら続け様に問う。
「何のサークル?」
「ん、んーー、内緒!そのうちわかるんじゃね?」
違和感の正体が1つわかった。
何の仲間かは知らないが、少人数の趣味の仲間にしてはあまりにひとりひとりの性質が違う。
例えば体育会系のマコトに、体の弱そうなミヤビ。
人見知りそうなアキラに、人懐っこいカエデ。
仲の良いクラスメイト…にしても何か違う。
まぁ、人は見た目で判断するなとはいうけれど。
そう、人は…見た目で……
それよりも、ずっと変な違和感が纏わり付いて離れない。
まだその正体がわからない…
「そうだ、ミヤビさんとセツナさんって何だか典型的な令嬢と執事って感じだよね?何か豪邸に住んでそうだし、学校の送迎とかも高級車を想像しちゃうな。」
「あー、セツナさんがでっかい車運転して後部座席からミヤビが出てくるのはよく見るぜ?まぁあの二人は結構昔からの仲らしいしなー……
ふっ…けどよ、驚いたのは、
実はあの二人…」
『うわぁあああああ!!!!!!!』
マコトは何か言いかけたが、誰かの悲鳴によって遮られた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
「何だ?…マコトくん、行ってみよう」
「あぁ」
俺とマコトは立ち上がり、声の方向へと走る。
その先には、腰を抜かしたアキラの姿があった。
「カ…カエデ…」
アキラは声を震わせ、何かを指差している。
指の方向には……血塗れのカエデが部屋でうつ伏せで倒れていた。
遠くからだったが、左側頭部に何かで殴打された跡が見える。
「カエデ!!おい!!」
マコトが走り寄り、カエデを揺さぶるが返答はない。
先程まで明るく動き回っていた少女が、物言わぬ死体となってしまったのだ。
「…駄目だ…おい!アキラ!セツナさんに警察呼んでもらえ!」
「え…あ…」
マコトに頼まれるもアキラは気が動転して動ける状態ではなさそうだ。
「俺が行ってくるよ…、マコトくん、アキラくん、現場は絶対動かさないで!」
「わかった!すまない、タカシさん!」
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
「セツナさん?!セツナさん!!」
彼の居場所がわからないので、手当り次第扉を強くノックしていった。
コテージにはいない、どうやら外のようだ。
「セツナさーん!!」
大声で呼ぶと、腕まくりをして斧を持ったセツナが駆け寄ってきた。
「どうしました?」
「ひぃい!?!斧?!!」
「あ、ごめんなさい、お風呂に使う薪を用意していたもので…」
「なんだ……って、大変なんです!カエデさんが…何者かによって…部屋で殺されてるんです!」
俺はいかにも胸ぐらを掴みそうな勢いでセツナに詰め寄ってしまった。
「何ですって?!すぐに警察を呼ばないと…」
「携帯電話の電波は入りませんよね?どうするんです?」
「無線機があります!それで本土に連絡が付けば…」
二人で無線室へと走り、ドアを開けた。
が、しかし…
「?!!」
「なん…だこれ……」
視界の先には、無線機がグチャグチャに壊された跡があった。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
「という…わけでした…」
俺は自室に皆を呼び、一連の出来事を話した。
死体にはシーツを掛けて、現場絶対保存を皆に知らせて、現場であるカエデの部屋には外側から鍵をかけた。
ミヤビは顔を真っ青にして気を失いそうな状態だったので、セツナとマコトの手によって俺のベッドに横たえた。
「本土に連絡が付かない以上、明後日の迎えがくるまでこの島から出られません。」
セツナは諦めを混じえた溜息をつき、ミヤビの額に冷たいおしぼりを乗せた。
しばしの沈黙の中、腕組みをして部屋の隅に立つマコトが口を開く。
「……んーんー、なぁ、タカシさんってここまでどうやって来たんだ?」
「ゴムボートで漂流して…あっ…」
どうして気づかなかったのだろう。
「それだよ!方角さえわかれば本土に戻って連絡がつくんじゃね?」
「ゴムボートは岸辺に置いてきた。マコトくん、一緒に様子を見に行ってくれないか?」
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
俺はマコトを連立ってゴムボートを置いた岸辺まで走った。
が、途中で立っていられない程の揺れを感じた。
「地震か?!」
俺は両手を地面につき、大地の振動に耐えた。
「中々、でかいな…」
マコトも身を伏せ、振動が終わるのを待つ。
長い地震の後、身を起こして再び沖まで走った。
だが…
「やばい!マコトくん!
波だ!引き返そう!」
振り返ると、波に攫われたゴムボートが見えた。
もはや、絶体絶命というべきか。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
コテージは幸い高台にあったので、波の影響は受けずにインフラは機能していた。
「僕たちもう終わりじゃん!カエデ…!一体誰が!!」
部屋に戻って事情を話すと、アキラが真っ先に取り乱した。
「あの、すみません…」
ミヤビの側に付きながら、セツナが口を開いた。
「アキラさん、第一発見者ですよね?どのような状況で?」
アキラは唇を震わせていたが、深呼吸して語りだした。
「廊下を歩いてたらカエデの部屋が開いていたんだ。
ドアくらい締めたらどうだと思って部屋を覗いてみたら…あのザマだよ。」
俺はあの時の光景を思い出し、ぐっと目を瞑った。
つとめて静かな声で、セツナは続ける。
「この島は絶海の孤島…タカシさん、あなたのような奇跡でも起こさない限り外部の人間は来れません。
つまり、その…カエデさんを殺めたのは……」
「この中の人間、ってことか…」
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
セツナが言いかけた言葉を、マコトが紡ぐ。
皆は目を見開き、周りを疑心暗鬼の視線で見渡した。
「冗談じゃない!僕はやってない!カエデを殺す動機もないよ!」
アキラは矢継ぎ早に捲し立てるが、マコトは言い返す。
「それは俺だって同じだ!俺たちはやっと出会えた『仲間』だろ?!そもそもカエデは恨みを買うような人間じゃねぇし、誰も『仲間』を疑いたくねぇよ!」
ふん…と鼻を鳴らし、壁に背を預けた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
疑心暗鬼の雰囲気は解けぬまま、ミヤビの体調のこともあり一旦解散となった。
俺は状況を整理した。
たまたま漂着した絶海の孤島。
恐らく所有者は令嬢ミヤビの親か親戚で、用事の時以外は使わない、普段は無人島なのだろう。
事件に関してはどうだ?
状況からして自殺、は有り得ない。
凶器は…鈍器か、よくある「バールのようなもの」…か?
いずれにせよ少し歩けば海に捨てられる。
考えてもあまり意味がないだろう。
犯人は?外部犯?……無理だ、こんな何もないところで潜めるわけがない。
それに俺がここに漂着出来たのは奇跡のような偶然だ。
ならば、あのメンバーにしか…
「仲間…『ナカマ』…か…」
そうだ、この者たちの「見えない共通点」、いわゆるミッシングリンクは何なんだ?
クラスメイト……やはり違和感がある。
小中高大…今までの経験でもこんなバラバラなグループは見たことがない。少人数なら尚更だ。
たまたま集まったゼミのメンバー?いや、普通ゼミは3年から。年齢的に無理があるし、学部によっては有り得そうだけど、それ以前にゼミのメンバーくらいならマコトくんが内緒にする意味もない。
ネットかゲームのオフ会?最近よくあるからな、オフ会。一番有り得そうだけど、マコトくんはミヤビちゃんがセツナさんに送迎されてることをよく「見る」って言ってたし、ネットの繋がりとはまた違いそうだ。
もしかして宗教繋がりとか…?その辺はもう知らない領域だ。
そういえば、ミヤビさんとセツナさんについてマコトくんは何か言いかけてたな。
(あの二人は…実は…の続きは何だ?)
聞いてみよう…と、横たわっていたベッドから上体を起こし、服を整えた。
待ち構えている未来も予期できずに。
✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼
第三章【第二の殺人】
「マコトくん!タカシだよ、入るよ!」
俺はマコトの部屋の前でノックをした。
「いる?寝てる?」
ノックを続けたが返事はない。
「いないの?開けるからね!」
鍵は掛かっていない。
ドアを開けると、そこには……
「うわぁあああ!!!マコトくん!マコトくん!!!」
先程と全く同じ光景が現れていた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
俺の声に呼応し、3人が駆け寄りドアの前に佇む。
「そんな…マコトまで…」
ミヤビは車椅子の上で気を失ってしまった。
「失礼…」
セツナが車椅子を押して、ミヤビを現場から遠ざけた。
アキラは終始無言で、その名の通り棒立ちしていた。
(マコトくん、本土に帰ったら一緒に飲みたかったな…)
などと頭の中で思いながら、死体にシーツを掛けようとした。
その時…
「??」
マコトの右手の人差し指の先に、血で何か書いてあった。
「11111111111…1が11個?」
殴り書きの様だが確かに1の様な縦の棒が11個書かれている。
「ダイイング…メッセージ…?」
俺は持っていた携帯電話で血文字の内容をカメラに収めた。
こんな状況なのにふと感じたことがあった。
(マコトくん、体は鍛えてるのに…指は意外と繊細だな…)
少々不謹慎だったかもしれないが、確かに感じた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
一方その頃
「お嬢様…」
「その呼び方はやめてと言ったはずです」
ミヤビをベッドに寝かしつけたセツナは、ふと虚空を見上げた。
「いいえ、敢えてここはお嬢様と呼ばせていただきます…
私は、あなたのためなら死んでも構いません。」
「駄目です!あなたは執事として、私にずっと仕えてくれました。だからこれからも…ずっと、側にいて…」
女の涙はどうしてこうも綺麗なのか。
男として込み上げたものをぐっと堪える。
今はただ、執事として…
貴女を守らなければ……
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
(嗚呼、僕は…)
アキラは電気もつけず、ただ一人で部屋に篭っていた。
アキラはカエデのことが好きだった。
自分の気持ちを打ち明けた初めての相手。
結果は振られてしまったけど。
カエデの持ち前の天真爛漫さで、その後の関係がギクシャクすることもなかった。
(君には救われたね、友達が居なかった僕に初めて声をかけてくれて…そして、生まれて始めて僕は告白をしたんだ…)
(だけどね、結局こんな『結末』になるなんて)
アキラの手にはサバイバルナイフが握られていた。
それを腰に仕舞うと、何かを決心したように部屋を出た。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
(1が11個の殴り書き…苦しみによるもがきとも違うよな…)
携帯電話で撮った写真を見ながら、俺はひたすら考えていた。
(何個か「1」がナナメになっている…3番目と、6番目と、9番目?全部3の倍数だが何か意味があるのか?
そして最後の2つの「1」は何か…短い)
訳のわからぬ棒の羅列。
ダイイングメッセージに違いないと俺の直感が告げている。
(何か、何かあるはずだ…)
俺は皆と出会った時からの事を思い出していた。
(まさか!これは…!!!)
ダイイングメッセージの謎が…解けた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
(しかし情報が足りない…ミッシングリンク「見えない共通点」は何なんだ
カエデちゃん、マコトくん、ごめん!)
俺は死体の置いてある部屋…まずはカエデの部屋に向かった。
(体には絶対触らないから)
カエデの荷物を探る。
可愛らしいボストンバッグだった。
中身は…
財布、携帯電話…財布の中に学生証。名前は安藤楓、東京の私立大。携帯電話にはロックがかかっている(デコりすぎだ…)
着替え…彼女に似合いそうなスポーティな服が多い。
下着…女の子らしいパンティと…(ブラ……Aカップ…ごめん見てしまった)
化粧ポーチ…化粧品が数点、Di○r…(随分いいものを使ってるな)
歯ブラシ、洗面用具…(カミソリ…危ない、手を切るところだった)
おやつ…き○この山(き○こ派か、敵だな)
携帯食料、水…(災害用か?)
そしてボストンバッグの奥に…
(は?!!!何でこんなものが??!!!)
彼女には「絶対有り得ない」電化製品が入っていた。
(嘘だろ……じゃあマコトくんの荷物は?!!)
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
マコトの部屋に向かい、荷物を探る。
いかついスポーツバッグだった。
財布、携帯電話…携帯電話にはロックがかかっている(財布も携帯もゴツい…自衛隊用かよ)
着替え…Tシャツとハーフパンツ数着(俺よりでかいんだよな、マコトくん)
下着…パンツが数着(ブリーフ派か)
ヘアワックス、スプレー…(ギ○ツビー、よくあるやつだな)
歯ブラシ、洗面用具…(また指をカミソリで切りそうになった)
携帯食料、水…(みんなこれは持ってきてるのか?)
薬入れ…
薬…
「は???」
マコトくんが何でこれを持ってるんだ?!
しかし、「やっぱり」という気持ちがどこかにあった。
(ん、手帳がある、失敬)
パラパラと捲っていると、スケジュールにはバイトのシフトだけが書いてあった。
勤務先は、東京の飲食店…
東京…、カエデちゃんと同じか
しかも…
(マコトくんは学生じゃない…フリーターだ…)
段々と見えてきた。
カエデ、マコト、アキラ、ミヤビ、セツナ
この五人の「ミッシングリンク」
クラスメイトでもオフ会でも、ましてや宗教がらみでもない。
マコトくんが言っていた「あの二人は…実は…」の意味もこれで繋がる。
そして最初からあった、拭い去れない「違和感」。
全ては繋がっていた。
そしてその「ミッシングリンク」があるから
だから
犯人は「あの人」じゃない
あの人…だ
✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼•┈┈┈┈•✼
【読者への挑戦状】
①男女五人を繋げるミッシングリンク(見えない共通点)は?
②マコトの遺したダイイングメッセージの意味は?
③そして、カエデ、マコトを殺した犯人は?
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