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宮田の衝撃の告白から一週間がたった。
あいつは相変わらずクラスの人気者で、どこからどう見ても普通の人間にしか見えない。
もしかしたらあれは、宮田の冗談だったのかも。
そうだ、からかわれたのかもしれない。
俺が変なこと言ったから。
そんなことをぐるぐる考えていたら。
あっという間に二週間が過ぎた。
「森口くん!」
「宮田?」
校門を出たところで宮田に呼び止められた。
実にあれ以来、久しぶりに宮田をちゃんと目にした気がした。
「ねぇ、寄り道しない?」
「はぁ?」
宮田の突然の提案にあっけにとられる。
だけど、その誘いを断るのはなんとなく勿体ない気がして。
俺は黙って頷いた。
しばらく俺たちは他愛もない話を繰り返しながら歩いていた。
気が付けば学校近くの裏山まで来ていて、俺は足を止めた。
「宮田。」
「なに?」
立ち止まった俺を置いて、宮田はどんどん先へ進む。
「こんなとこ来ても何もねーよ、戻ろうぜ。」
「あるよ。」
宮田は振り返りもせずどんどん進んでいく。
仕方なく俺はその背中を追いかける。
しばらくすると森を抜け少し開けたところへ出た。
何も遮るものがない空は嘘みたいにキレイだ。
「知ってた?今日って流星群が見れるんだよ。」
「へー、そうなんだ、それでこんなとこまで来たってわけか。」
突然立ち止まった宮田はくるりと振り返って笑った。
あぁ、この宮田の顔も初めてみるな。
いつもの胡散臭い笑顔じゃなくて、もっと心からの笑顔。
「俺さ、楽しかったよ。」
「なんだよ急に。」
「この星に来てよかった。」
「は?お前…。」
なんだ、まだあの冗談続いてたのか?
そう言いたかったけど、俺はもうわかってしまった。
宮田が心からそう言っているんだということを。
「この星は本当に美しい。生きている物もみんな美しい。人間なんていらないモノだなんて俺のとこでは言われてたけど。」
「おい、何言ってんだよ。」
あの時みたいに宮田の顔は夕焼けに染まってとてもきれいだ。
「だから、俺たちみたいなモノは来ちゃだめだ。」
「宮田…。」
「俺、森口くんに会えてよかったよ。」
言葉が出てこない。
本当は俺も同じだって言いたかったのに。
俺の口は、声をなくしたみたいに何も出てこない。
そんな俺ににっこり笑って宮田はポケットから何かを取り出した。
手のひらほどの大きさの、深い水色の宝石のようなビー玉のような物。
それはキラキラと輝いていてとても美しかった。
「勝手かもしれないけど、森口くんには覚えててほしい。俺の事。」
「わ…忘れるわけねーよ!」
「ありがとう…ばいばい。」
「あ…っ!」
次の瞬間。
宮田は空に向かってそれを掲げた。
夕焼けから夜に代わっていく空にきらりと何かが光る。
「すげぇ…。」
次から次へと流れてくる光。
まるで誰かが、星の入った箱をひっくり返したみたいだ。
「最後に君とこれを見たかったんだ。」
「宮田…。」
その言葉に隣の宮田を見ようとしたけれど、それはできなかった。
宮田の体は真っ青な光に包まれてあっという間に消えてしまったから。
さっきの光が嘘のように森は静まり、さわさわと揺れる木の葉の音だけがこだまする。
行ってしまった。
きっと帰ってしまったのだ。
俺なんかがどんなに頑張ってもたどり着けないような遠い遠い星に。
いつまでも流れ続けるその光を、俺はしばらくぼうっと眺め立ち尽くしていた。
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