追う、ヨーコ ……7

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追う、ヨーコ ……7

〝ゼアズ・ソー・メニー〟 曲の途中からだけど、そこには骨組みが剥き出しというか、そう、スッピンで余所行きではない無垢な魂が悲痛なほど感じられた。涙は止まらぬどころか、更に溢れた。尽きるまで、それに任せよう……。そして、立ち上がり、歩き出すのだ! じっとしていちゃいけないのだから……。果たして、それまでは泣こう……。そこまでいったら、もう一度、〝ラヴ・アンド・マーシー〟からアルバムを聴いてみるのだ。 今のアタシには、傷口に塩を塗り込めるぐらいの方が丁度良いのだ、お似合いなんだ! どーせ、この傷だって癒される。アタシはアタシで、生きていかなきゃならないんだからさ……。だから、アタシはよろよろ立ち上がった。まだ、涙は尽きてはいないが、じっとしていちゃ事態は悪化していくだけだ。 腰を屈めて、転がった丸椅子を立て直すと腰を下ろした。突きつけられていた無垢な魂が終わり、ザーザー言い始めた針を上げると、アームを戻して盤のトップへそれを落とした。 ザッーザー……、いきなり歌と演奏が立ち上がった。 〝ラヴ・アンド・マーシー〟 真っ暗な店内で、アタシは無垢へと己を差し出した。その心の準備はまだ出来ていないはずだ。でもさ、じっとしていちゃいけないから……。そう、ただそれだけ。 そして、それだけに縋ることで、きっと近いうちに、でかい音で『レックレス』を掛けれる、そう、信じるしかなかった……。 アタシは、いつの間にか両の手を重ねている。重ねた右手で左手の甲をギュッと握ってみる。と、右手の甲へボタボタと涙が降り注ぐ……。どしゃ降り、だった……。 いつまで経っても身元が判明した様子は窺えかった。それどころか、あの事件そのものについての報道自体が、あの後、立ち消えだった。それは、全く不自然なほどに……。 それと、あれ以来、タクさんの姿も見掛けなくなってしまった。 で、アタシは吉川へそれとなく探りを入れてみた。 「元より関係ない件だし、興味もあまり無いな……」 アタシは、やや強い口調で、もう一押ししてみた。 「JFK観たよな? 俺もだッ……」 吉川もまた、それとなく強い口調だった。 もっとも、アタシすらその頃には多少なりとも立ち直りつつあるのもまた事実だったから、その件はやがて曖昧にフェイドアウトしていった……。 「そこが、アンタの短所で長所なのよ」 ルミ姉さんにはそう言われた。姉さんはギリギリまで逃げないから、アタシなんかより、もっと、ずっと……。 でも、この件ではもう逃げちゃいけない気がするのだ、やっぱりさ。だから、現実逃避しつつ、キチンとけじめはつけれないのかを考えた。そう、アタシらしく……。で、テープ作りを思い付いた。洋子さんとの件をも含めて、ここ最近にアタシが生きた日々の冒険の記録を、そう、サントラにするのだ。サントラを聴いて、好きな映画を思い出すのと同じ役割りを担うのだ。違うのは、片や素敵な思い出を、片や思い出したくはない痛みを再生する触媒だってこと……。出来上がっても聴くかどうかは分からないけれど、幾日にも渡って選曲やら曲順やらを練って過ごすのだから、それはもう詩人における詩集みたいなもののはずだ。産みの苦しみ……。そう、それにはきっと意義があるはずだ……。これを仕上げたら、そうだその時こそ『レックレス』を掛けよう! そう、アタシは決めた。 「くだらねぇ!」 そう思いながらも、だ。 丁度、1週間掛かってアタシはサントラを完成させた。 予め枷をつくった。テープは46分で、音源はアナログ。 公私の区別無く励んだ。それを現実逃避だと突っ込まれても、返す言葉は元より無かった。開き直った。 そして、とうとう出来上がったのがこのテープだった……。 ・サイドA・ 1 ラヴ・アンド・マーシー/ブライアン・ウィルソン 2 悲しいうわさ/クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル 3 カントリー・ガール/プライマル・スクリーム 4 讃美歌43番/ジェスロ・タル 5 グリーン・リバー/クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル 6 ワン・ナイト・ラヴ・アフェアー/ブライアン・アダムス ・サイドB・ 1 18ティル・アイ・ダイ 2 スージーQ(Pt. 1)/クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル 3 月光のドライヴ/ザ・ドアーズ 4 すべては風の中に/カンサス 5 イン・ザ・シティ/イーグルス 6 ゼアズ・ソー・メニ/ブライアン・ウィルソン アタシは今、完成したテープを眺めながら、『レックレス』を聴いている。カウンターに置いた両手を重ねたままに……。 終わり 参考・プロフィールからSpotify上にアップした サキのサントラ へ行けます。多分(笑)
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