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ーー見間違いなんかじゃなかった。
押し入れの隙間から、顔半分だけ出してこっちを覗く女の子がいる。
4、5歳くらいで、まるで生気を感じさせない青白くやつれた顔。
画面越しに、虚ろな瞳と目が合った。
「うあっ…」
声にならない声を出して、俺は端末を放り投げた。
端末は壁にぶつかり、鈍い音を立てて床に転がる。幸いにも画面は下向きになっていた。
全身の毛穴は閉じて鳥肌が立った。俺は情けなくも震えて、しばらく動けずにいた。
これ、心霊写真だ。
見てはいけないものを見てしまった。
あの顔が頭に焼き付いて離れない。
掲載した奴は気づかなかったのだろうか。
俺の他に気づいた奴はいるのだろうか。
呼吸を落ち着かせた後、ゆっくり端末を拾い上げ、目を閉じたまま手探りで電源を切った。
端末はバイブを鳴らして切れた。これで起動すれば、待ち受け画像に戻る。
俺が見たのは事故物件だったのだろうか。何にせよ苦情の連絡をしてやろう。
ブー
電源を入れると、バイブを鳴らして起動した。
息が、止まる。
画面には、またあの押し入れの写真が映っていた。
しかもさっきは隠れていたはずの、もう半分の顔があらわになっている。
「何で、画面がそのままなんだよ!!」
画面を何度もタップしても動かない。
フリーズ現象を疑ったが、おかしい。おかしいんだ。
再起動を何度も何度もかけた。しかし起動後も画面が変わらない。
再起動に合わせて女の子がどんどん近づいてくる。
気づいた時には画面いっぱいに女の子が映り込んでいた。
濁った両目の縁からは赤い血が流れ、抉れた頬の肉からはウジが湧いている。ボロボロの下着1枚を着て、露出した体には赤黒い液体がべったりとついて、内臓と骨が至る所から飛び出ていた。
あまりの恐ろしさに身が震え、汗が止まらない。
「うわあああ!!消えろ!消えろ!」
端末を何度も踏みつけた。画面は割れて欠片があちこちに散らばる。
突然、画面が真っ暗になった。
やっと、あの女の子が消えたのか?
恐怖で硬直した手をどうにか動かして、警戒しながら端末を拾う。
ボロボロに壊れた端末は、黒一色で何も映していない。
ほっと胸を撫で下ろす。
一体、何だったのだろう。
もしかしたら、単なるドッキリだったんじゃないか?
…そうだよ。
画面の向こうにいる奴が、直接こっちに何ができるっていうんだ。
現に今も影響はひとつもない。
冷静に考えたらこれは、悪戯だ。
馬鹿馬鹿しい、大袈裟に怯えるんじゃなかった。
俺はため息をついて自ら壊した端末を眺めた。
ブー
なんと、壊れたはずの端末が起動した。
よかった、画面が割れただけだったんだ。
修理代がかからなくて済む。
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