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落夏星
一人の、少年が息を切らして急な参道を登っている。その少年の目には期待の光が瞬いていた。
ひたすらに、ひたすらに階段を登る少年の手にはこの情景に似つかわしくない使い古したペンが握られている。
少年を待っていたのは、初老の男。
目を弓なりにして、少年が頑張って登るのを見つめていた。
「天彦おじいさん! 今年も来たよ! 」
「おー、よく来たの。はい、今年も書くじゃろ?」
「うん!」
二人の手を渡ったのは、細長い和紙。
ただの紙切れではなく、いわゆる短冊。
この地域では七月ではなく、八月の七日にこうして神社の笹へ短冊をかける。
「もう、守くんだけになってしまったのぅ。ここに来るのも」
古い慣習というのは、人々の意識がそのまま形に現れるもの。意志を受け継ぐ者がいなければ、そのまま廃れ呆気なく消えてしまう。もちろんこの七夕も例外ではない。
「今年も、このお願いかの? もっと欲しいおもちゃとか、好きな子の願いとか……」
「ううん! これがぼくの一番かなえたい夢だから!」
食い気味に答えた少年の短冊には
『大工さんと宇宙飛行士になる!! 守』
と文字の大小もばらばらに書かれていた。
五歳時から小学三年生になる現在まで守の夢は一貫してこれだった。
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