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二十年後、守は少年から立派な大人になった。
しかし、その目にあった光は嘘のように彼の目からは消え去りただひたすらに絶望を色にしたような黒がじんわりと広がっていた。
「それ終わるまで帰れると思うなよ」
「え、でも今日は用事が……」
「ん?なんだって?」
「いえ」
守が務める先は、宇宙でも現場でもなく。
日本でもトップクラスといえるほど労働環境が劣悪なブラック企業。
ブラックどころか漆黒だなと守は苦笑した。
『今年も帰ってこられる?』
母からのメールを見た守は、隣のデスクで作業しているゾンビのように疲れ果てた様子の先輩に尋ねた。
「今年も、八月七日休めますか?」
「は? お前今年休んだら、クビにするって言われてなかった?」
ゾンビ上司は冗談を言わない。ゾンビ上司の上司も言わない。この会社で、冗談をいってる暇はないということか、こんな場所で働くと心の余裕も無くなるからか。
這ってでも会社に来いというのならば、這ってでも実家に帰ってやる。そんな決意は一瞬大きく燃えて、すぐに鎮火した。
『今年は無理そ』
どこで人生の道を間違えたのだろう。守は深い心の闇へと沈んでいった。その間もキーボードを叩く指は止まらない。
彼は、どこまで運もがなかった。高校生の時、同級生が投げたボールが目へとヒットし、悪くなった視力を周りに気づかせまいと眼鏡をせずに生活していると、階段から転倒。宇宙飛行士は遠く叶わぬ夢となった。
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