挑戦

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挑戦

 大学部はどのキャンパスもサークル活動が盛んだ。特に、夏休み明けから後期試験の前までは学園祭もあるので、さらに活発になる。  今日の緑陵キャンパスでは、軽音部と演劇部が公演を行うという事で、学生食堂の壁やガラスにはチラシが貼られ、床は手配りのチラシで埋め尽くされている。 「うざい」  足元を気にしながら歩いていた飛鳥が顔を顰めた。先を歩いていた龍太が苦笑しながら学食のドアを開ける。 「仕方ないよ、今日は」 「そうそう。それより、もう友貴来てるかな」  飛鳥の後ろから顔を出した美衣が周囲を見回す。学食の横にあるキャンパスの正門の脇に、友貴が立っているのが見えた。 「いた! 友貴!」  美衣が駆け出していく。飛鳥と龍太は顔を見合わせると、美衣の後を追いかけて行った。 「ずいぶん待ったぞ。同じ大学でも、違うキャンパスって緊張するんだぜ」 「ごめんね。学食が混んでたんだよ」  友貴が頬を膨らませている前で、美衣が手を合わせている。飛鳥と龍太に気付いた友貴が軽く手を上げる。 「よお」 「久しぶりだね、友貴」  中等部、高等部は寮生活をしていた為、いつでも一緒だった4人だが、現在は飛鳥と美衣、友貴は自宅に戻り、龍太は一人暮らしをしている。友貴と飛鳥は家が隣なのでよく顔を合わせるが、龍太は『White』の活動ぐらいでしか友貴と会う機会がないのだ。 「電話はするんだけどな」 「そうなの?」  美衣が龍太と友貴の顔を覗き込んでくる。友貴は眉を顰めた。 「なんだよ、おかしいか?」 「イメージ湧かないんだもん」 「俺だってする時はあるさ。龍太はほとんどしてこないけどな」 「時間、平気かなと思うと、なかなかね」  龍太が肩をすくめる。飛鳥は3人を見てため息を吐いた。 「お前等、時間はいいのか?」 「あ! いっけない! 早く行こう!」  美衣が友貴の腕を取る。友貴は美衣の頭を撫でると2人を振り返った。 「先に行ってるから、ゆっくり来いよ」 「了解」  龍太が手を上げると、美衣と友貴は寄り添うように歩き出した。中学時代から付き合っている2人は相変わらずの仲の良さだ。まるでキスでもするかのように顔を近づけながら話をしている姿に、飛鳥が顔を顰める。 「恥ずかしい奴ら」 「そんな事、言うなって」  龍太は苦笑すると、飛鳥に手を差し出した。 「俺達も手を繋いで歩こうよ」 「なんで?」 「そうしたいから」 「俺はどうでもいい」  飛鳥はふいと顔を逸らすと、龍太の前を歩き出した。  一応、飛鳥と龍太も高校時代から付き合っているのだが、飛鳥が人と触れ合うのを好まない事もあって、なかなか美衣達のようにはならない。とは言え、昔だったら『馬鹿か?』と一刀両断にされていたので、理由を聞いてくるだけ良しとすべきなのだろう。  肩をすくめた龍太は飛鳥の横を歩き出した。 「今日は事務所で新しいシングルの打ち合わせだったよね」 「面倒臭い事考えやがって」  飛鳥が口を尖らせる。 「そんなの、友貴と事務所で話し合えば済む事だろ」  『White』として活動する時、インタビュー等の対外的には龍太がリーダーとして動くのだが、事務所とのやり取りは全て友貴が受け持っている。今までの『White』の楽曲は龍太が作曲したものに友貴が歌詞をつけているので、事務所の要望等も友貴が聞けば事が足りてしまうのだ。 「そうかもしれないけど、たまには全員で話を聞くのもいいんじゃない?」 「どうして?」  飛鳥が足を止めて龍太を見上げる。龍太は肩をすくめると笑みを浮かべた。 「俺達はTVとかの出演をほとんど断ってるから、新曲の作成の時くらいしか事務所に行かないだろ? 夏澄さん達も、俺達が元気にしているか知りたいだろうし、それに…」 「それに?」 「…たぶん、友貴が美衣に会いたいって言うのもあったと思うよ。いくらデートしてるって言っても、寮生活と違ってずっと一緒じゃないからね。少しでも会いたいって思うだろうから」 「…そう」  ふいに飛鳥が一歩前に出た。龍太に背中を向けたまま、後ろ手に出した手を軽く振る。 「…たまには、いいよな」 「飛鳥…」  龍太は口元に笑みを浮かべると、そっとその手を握った。
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