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「和君。子供の名前なんだけど、やっぱり一人でも立派に生きていけるように……」
「何でもいい」
私の言葉を遮ると、彼はテーブルの上に置かれた味噌汁を一口啜りながらチラリとこちらを一瞥する。
「それより、味噌汁不味いんだけど」
と、私を睨みつける尖った瞳を見て心の中で溜め息をつく。
……今日はご機嫌斜めか。
そう思いながらも黙っていると、彼が無言で立ち上る気配がした。
どうやらキッチンのシンクに味噌汁を流すと、そのまま自室の扉の奥へと消えていったようだ。
私は静かになったリビングで一人温かい味噌汁に口をつけると、お出汁の香りがふわりと漂う。
「……美味しいのに」
彼の八つ当たりにも大分慣れてきたけれど、何も感じないと言ったら嘘になる。
「……はぁ」
思わず溜め息を漏らすと、まるで「元気を出して」と励ましすようにお腹の内側からポコリと優しく蹴られる。
「……ごめんね」
そっと風船のように大きく膨らんだお腹を擦ると、不思議と黒い感情が波のように引いていった。
……大丈夫。きっとこの子が生まれたら彼も変わってくれるはずだから。
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