7人が本棚に入れています
本棚に追加
「……今、蹴った?」
「うん。最近よく動くの」
「……そうなんだ」
と、手に残っている感触をいつまでも確かめているかのように自分の手を見つめている男の子に、そっと声を掛ける。
「それより、こんな時間に外出してたら親御さんが心配するんじゃない?」
すると一瞬、伏せられた瞳には長い睫毛が影を落とす。
その姿に聞いてはいけないことを聞いてしまったと悟った私は、話題を会変えようと口を開きかけたけれどその前に、男の子の唇が小さく動く。
「……いないです」
「……え?」
「正確には父親は刑務所にいますけど」
__刑務所。
その言葉に心臓がドクリと波打つ。
「……そうなの」
……なら、お母さんは?
なんて、簡単に聞けるはずがない。
“__それより、こんな時間に外出してたら親御さんが心配するんじゃない?”
“__……いないです”
さっきの答えは、母親すら彼の側にはいないというように聞こえたから。
最初のコメントを投稿しよう!