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「ひゃー!ごめんなさい。トイレに行きたくなったのに電話が終わらないから自分で探そうと思ったの」
何を言われたかわからないけれど怒られている雰囲気は十分に伝わった。
恐るおそる顔を上げると、軽くため息を吐いた王陽明の顔が見えた。
「そのドアを出て左だ」
「へ?」
「トイレだろう?」
「はい。……あの……これ、外してもらえませんか?」
手錠の掛かった手首を顔の前に掲げると、王陽明は軽くため息を吐いて千鶴の手錠を外してくれた。
千鶴はトイレで手を洗うと手首にうっすらと傷があり、さっきまで手錠を掛けられていたんだと痛感する。
しかし、あの船の上での揉め事を目撃してからの急展開。
まるでドラマでも見ているようで実感が湧かなかった。時間だって まだ、それほど経っていないはず……。
船の上の揉め事は、見てはいけないものだったんだ。
口封じに殺されるかも知れないほどの案件。
あの時、行き過ぎた好奇心で殺されていたのかもしれない。
そう思うと背筋にゾワッと冷たいものが走り、今まで”生きる”と言う事を深く考えた事もなかったが、いざ「死」のカードを目の前に提示されると「生」への執着が湧き起こる。
「まだ、死にたくない」
鏡に映る自分を見つめた。
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