美しい華には棘がある

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 王陽明は、愛車マセラティのエンジンキーを回した。フェラーリ製のV8エンジンが低い重低音を奏で、滑らかに走り出す。  麗香のせいで、出発に手間取ってしまった。幼い頃、兄妹のように遊んだいとこが、訊ねて来たのだからと思い丁重にもてなしたつもりだったが、麗香は昔から自分を中心に世界が回っているかのように振舞うところがあった。  千鶴にも女王のように振舞ったのだろう。  外せない仕事があったとはいえ、千鶴に麗香の事を頼んだのは間違いだった。    千鶴を泣かせたくないのに泣かせてしまった。    助手席の上に置かれたタブレット。そのタブレットの千鶴の居場所を示す赤い点滅は、近所の量販店にある。  千鶴の実家で待つのもどうかと思い、直接量販店に行くことにした。  ただ、何階にいるのかがGPSでは追いきれない。  最近、増築され大きくなった量販店で一人の人間を探すのは容易ではないだろう。  駐車場入口をくぐり、上の階へのスロープへ車を走らす。  上階の空き駐車のスペースを探すのに車の速度を落としゆっくりと駐車場内を移動していると、奥の駐車スペースから出てきた車とすれ違った。  すれ違いざま見た運転手の顔は、見覚えのある顔だ。  「暴龍(バオロン)」  ザワリと悪寒が走り、千鶴の居場所を示す赤い点滅に目をやると移動し始めている。 「他们得到了我(やられた)
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