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「じゃあ、また明日」
「ばいばい」
小林千鶴は定時制高校が終わった後、直ぐそばにあるファミレスで友人と夕飯を食べに行き、流行りの音楽や恋愛リアリティー番組など他愛もない話をして時間を過ごした。
駅に向かう友人と別れ、元町と中華街の間にある川沿いの道を自宅に向かい自転車に乗って走り出す。
元町も中華街も午後11時近い時間ともなれば、閑散として人もほとんどいない。
ましてや間の道なんて誰もいない。
通りの車もまばらで昼と夜の顔が全く異なって見える。
川の上には高速道路。川には作業船が浮いて独特な風景。
何処を見ても人工的なこの町の冷たくて何故か温かい雰囲気がとても好き。
オレンジ色の街灯に照らされた道がノスタルジックな感じ。
自転車を軽快に飛ばし夜道を突き進む。
わぁぁぁぁっ!
横浜中華街の朱雀門を過ぎた辺りで男性の悲鳴のような声が聞こえた。
「ナニ⁉」
自転車のブレーキ音をキキッーと立て、慌てて降り立ち、辺りを見回す。
でも誰もいない。
橋の上から川を見下ろすと、停泊している作業船の上で争う数人の人影が見えた。ただ事ではない雰囲気に慌てて身を低くし様子を伺う。
「スマホのムービーで映るかな?」
スマホを構えて撮影を開始し、男数人が川に浮かぶ船の上でもみ合う様子が写しだされた。ズーム機能とナイトモードを駆使すれば、わりと鮮明に様子がわかる。
手にナイフを持って振り上げているのが画面に映り、マズイ予感がした。そして、罵声が聞こえ、船の上で揉み合い始めた。男の体にナイフが突き刺さる。
” ドッボーン ”
派手な水音と共に人影が船から川に転落。
「やっばい、これスクープじゃない? SNSでUP? 警察? どうしよう」
千鶴は、なんだか凄い事を目撃してワクワクしていた。
でも、一抹の不安が過ぎる。
(何だったけ? 好奇心は身を滅ぼすだっけ?
ああ、” 好奇心は猫をも殺す ”そんな諺があったなぁ)
なんて事を考えたのが悪かったのか、
抑えきれない好奇心が悪かったのか、
千鶴は、ガツンと後頭部に痛みを感じ意識を手放した。
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