好奇心は猫をも殺す

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千鶴の人生は、かろうじて終らなかった。それでも残念ながら、ぴんちは続いている。 黒豹のような男が言う。 「お前、これにサインしろ」 「えっ?」 男の言葉の意味がわからずキョトンとしている千鶴。 そんな千鶴にイラッとした様子の男がこれまた高そうな大理石の白いリビングテーブルの上にある書類を指差す。 白地に茶色のプリントの書類。 その横には、100均では絶対に売っていない、一本幾らするんだか見当もつかない高級そうな万年筆が添えられていた。 千鶴は、男が指差したプリントを手にすると、その内容に驚きのあまり大声で叫んだ。 「えっ、ええっ──!」 「嘈杂(うるさい)!」 「だって、これって、誰がどう見てもじゃん!」 千鶴は、手首に付いた手錠をジャラジャラ言わせ、抗議の声を上げた。 「なんで、攫われて、見ず知らずの人と結婚なんてありえない」 スゥッと男の纏う空気が冷たくなる。そして低い声が聞こえる。 「これにサインしないと お前、死ぬぞ」 怒気が含まれた声にザワリと背筋が凍え、頬を冷たい汗が流れた。 もしも、千鶴にオーラが見えたら、男から黒い気が出ているのを見たに違いない。 すでに、抵抗する気持ちがなくなり、おとなしく婚姻届けに目を通す。 婚姻届けの男性の欄には既に署名が入っていて  ” 王 陽明 ” と書いてあった。 「オウ ハルアキ……って、あなたなの?」 「そうだ」 「私は、王さんと結婚しないと死ぬ事になるの?」 「そうだ」 「なんで?」 「見てはいけないモノを見てしまったからだ」 やっぱり、余計な好奇心など出さずにその場を立ち去ればよかったんだ。今さら悔やんでも悔やみきれない。と千鶴は後悔した。 「私、まだ、未成年だから保護者の同意書が必要だと思うけど」 「20歳って言っていたじゃないか」 「もうすぐ20歳って言った」 「いつ、20歳になるんだ」 「明後日」 「じゃあ、明後日提出すれば問題ないんだな」 「そんな、詳しい事わかんないよ。書いた事ないもん」  ” チッ ”  舌打ちされた。
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