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「話を戻そうよ」
ランを慰めながらヒカルが言った。
「そうだね。もしこれが最初から仕組まれていたなら部長は事故や自殺じゃなく殺人……」
「おいおい」
カイトはリョウヤをたしなめるように止めた。
「本当にイタズラで死んだように見せかけていたとか」
タケオは思っていた事を口に出すと、みんなヒカルを見た。
「そんなハズは……」
ヒカルは首を横に振る。
「脈はなかったし、体も冷たかったよ」
「ん……そうか。偶然が重なったってこともあるのか」
「偶然が重なる?」
ヒカルがリョウヤに聞き返した。
「えーっと」
リョウヤはちらりとランを見て、それから説明を続けた。ヒカルに慰められて落ち着いたのかランは意味もわからずきょとんと話しを聞いている。
「昨日のお酒とかの影響で仮死状態になった。あるいは首を吊ったふりをしようとしてそのまま気絶して、脈も体温も死んだと誤認するくらい落ちていた」
やはりランには脱法ハーブの事は秘密するつもりだなと思いながらタケオは聞いていた。
「それで空き家で蘇生した。死んだと思われた人が蘇生する事はそれほど珍しくないんだ。通夜なんかは蘇生しないか確認するという側面も元々はあったんだよ」
「そうなんだー」
リョウヤの博学にメイがうっとりした顔をしている。
「自分の置かれている状況に気づいた部長はカードを残した。でも……」
調子よく話していたリョウヤが言葉につまった。
「裸だったからね」
ヒカルが代わりに答えた。タケオは何のことか考える。
「あっ」
タケオは思わず声が漏れた。
「人狼カード」
「そうなんだよね」
リョウヤが困った顔で応えた。
「ん? どういう事だ?」
カイトが頭をひねりながら訊いた。
「裸だったから人狼カードは持っていなかったってこと。ここに取りに来る余裕も時間もなかっただろ?」
タケオの説明にカイトはなるほどを納得した。
「つまり」
リョウヤが続ける。
「イタズラ説を進めるなら元々死んだふりをしてあの空き家かどこか宿以外にカードを用意していたってことかと。 偶然死んだふりが本当にうまくいって、目覚めたあと隠していたカードと着替えを使って今は隠れているとかかな?」
「そうだよ! 昨日長い時間いなかったのって、その準備をしていたんだよ!」
アヤカが叫ぶように言った。
宿に着いてから1時間くらいコウがいなかった事をみんな思い出した。本人はヤクザが隠した脱法ハーブだか麻薬だかを探していたと言っていたが。
「そうだよね、コウが死ぬわけないし」
メイも明るい表情でアヤカに言った。二人とも人が死んだ、知り合いが死んだという状況を受け入れたくなかったのだ。
いや、二人だけではない。タケオですらイタズラ説を受け入れたかった。ただヒカルはまだ納得していないという顔をしている。
「俺は毛布の上から触っただけだけど、やっぱ死んでたと思うけどなあ」
ヒカルを擁護するようにカイトはそう言った。
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