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この名前はもはや呪いだと、綾斗は思った。
男の子みたいな名前だね、と言われることは少なくない。
当然だ。この名前はもともと自分につけられるものではなかった。
兄になるはずだった「アヤト」は、母の腕に抱かれることも、産声を聞かせることもなく逝ってしまった――
綾斗が生まれる5年前の出来事だという。
その5年間を両親はどんな思いで過ごしたのだろう。
子供の綾斗には全てを理解することはできない。けれど、とてつもなく長い時間だったことは想像できた。
ようやく授かった子は待望の男児ではなかったが、両親は一人目の子を綾斗に重ねた。
生きられなかった兄の代わりになるように、綾斗は常に意識して振る舞った。
けれど、少し疲れてしまった。
どうすれば両親が喜ぶのかを一番に考えてしまう。
自分がやりたいことがわからない……。
「アヤトが生きていたらなぁ……」
両親がリビングでそう話しているのを偶然聞いてしまった事がある。
彼ら以上にそう思っていたのは綾斗自身だ。
綾斗が何をしても、彼らは綾斗の中に兄の欠片を探した。
自分じゃなくてアヤトが生き延びれば良かったのに。
ふつりと浮かんだその思いは、綾斗の心をいつの間にか蝕んでいった――
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