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学校に着くと、星祭りの話題でクラスは盛り上がっていた。
この町恒例、星祭りがもうすぐ開催されるのだが、たまたまスターリンクが飛ばされる日と重なった。川の下流近くで夜空にランタンを飛ばすお祭りなのだが、夜空にランタンと星、動く人工衛星が混在することになり、ジョバンニは密かにわくわくしていた。こんなことってそう何度もあることじゃない。
わくわくしていたのにはもう一つ理由があった。
父親が帰ってくるかもしれない。ジョバンニの父親は、漁師で遠い海に漁に出ておりめったに家に帰ってくることはなかった。しかし、星祭り近くの晴れた日に帰ってくることは格段と多かった。
「何へらへらしてんだ」
からかいまじりに話しかけてきたのは、同じクラスのザネリだ。ジョバンニは何かといじってくるザネリが苦手であったが、カムパネルラの友人でもあるので我慢していた。かまってほしくないだけなのにと下を向きながらも、無視はできないと力無げに答える。
「もうすぐ父さんが帰ってくるかもしれないから」
「ああ、海に出てる親父か」
「うん」
「どうだろうな。海の天気は変わりやすいから、この辺りが天気よくたって海の上じゃわからない」
「そうだね」
そんなことはジョバンニだってわかっていた。わかった上で話をしている。
「でもね、星祭りの日近くによく帰ってくるから」
「星祭りの日ってゆってもお前はどうせバイトだろ?」
「そうだけど、夜に少し空を見上げるくらいの時間はあるよ」
「親父にバイト姿見せんのかよ」
「そうじゃないけど」
ジョバンニは急に恥ずかしくなって顔を赤らめる。同じ学校にバイトをしている生徒などほとんどいなかった。
「遠い海までわざわざ働きに出てるのに、息子がバイトとなりゃそりゃ涙流しちまうだろうよ」
そうなのかな、とジョバンニは考える。自分が働くと父親はイヤなのだろうか。病気で働けない母親の代わりに、薬代と生活費の一部、自分のスマホ代を稼ぐのはいけないことなのだろうか。
「もうやめとけよ」
ジョバンニが言い澱んでいる間にカムパネルラがやってきた。
「悪いな。ザネリは君に興味があるだけだから。決していじめたいわけじゃない」
ジョバンニは内心その意味は理解し難かったが、黙って頷く。カムパネルラはいつだって空気を分断するようにしゃべる。スパン、スパンと小気味よく。
「興味?別にそんなもんねーよ」
「ザネリ、自分では気がつかないこともあるんだよ」
「はぁ?」
自分がここにいては事が大きくなるだけだと思ったジョバンニは、授業以外のときは図書室に逃げることにした。
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