ジョバンニー銀河鉄道の夜ー

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  *  すぐに牛乳屋へ向かうが誰もいない。夢の世界のようにひっそりと静まり返っていた。  仕方なく牛乳を諦めて、裏山の丘へ向かう途中の小川にかかる橋を渡ろうとしたときだった。不意に現れたのはザネリ。 「親父は帰ってきたのか」 「まだだよ」 「ほらな」 「明日かもしれない。明日も天気はよさそうだから」  ザネリはふんっと鼻を鳴らした。 「何でこんなところにいるの。ランタンはもっと下流で飛ばすはずでしょう?」 「みんなで穴場を探してたんだ。もうすぐカムパネルラたちも来るぜ」  カムパネルラの名前を聞いてドキッとするジョバンニ。  その一瞬の表情の変化を見逃すザネリではない。ザネリは目をキラッと刃物のように尖らせた。ジョバンニの心が戻ってくる前にと思い、力の限り彼の背中を押して、ザバン!と川に突き落とした。 「な、何をするんだ」 「どうせこの後、丘の上で星でもスターリンクでも眺めるんだろう?カムパネルラと二人でさ」 「そ、そんな約束はしてないよ。それよ、り、助けてっ!」  川の流れは緩やかに見えたが、辺りは暗く、見た目以上に水流が強く上手く泳げない。流れていくジョバンニに合わせて、川岸をゆっくり歩くザネリ。 「ずっとそこに居やがれ」  もうダメだと思ったジョバンニは必死にもがきながら、ザネリに近づき水をかけた。彼がフラついた瞬間、足首だか何だかわからないものにしがみつき、川の中へと引っ張り込む。  さらに落ちたザネリの体を蹴って踏み台にすると、ジョバンニは何とか岸に戻ることに成功した。立ち上がろうとすると、全身がびしょ濡れで体が重い。ゆっくり地面を踏み締めるように立ち上がり、流れていくザネリを冷ややかに見つめる。 「た、助けてっ!助けてっ!」  今度はザネリが救いを求めた。  ジョバンニは正面を向くと一度も振り返ることなく、裏山へと向かった。少し歩いていると、ザバン!っと誰かが飛び込む音が聞こえた。  下流と比べひっそり物静かに構えていた岸辺に、花火のような鮮やな響きが加わり、ジョバンニは口元を歪めた。 「ザネリなんか助ける価値もないのに」
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