ジョバンニー銀河鉄道の夜ー

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  *  目を開けると裏山にある丘の上で寝ていた。のっそりと体を起こすと、まだ衣服が少し湿っている。 「ミルクを取りに行かなきゃ」  ジョバンニはゆっくりと立ち上がり、背中やお尻についた汚れを振り払った。ズボンのポケットの中に何か入っていた気がしたが特に興味はない。  裏山を下りると、川の上流辺りに人だかりができていた。いつもなら人はあまりいないその場所に星博士がいる。カムパネルラのお父さんだ。 「この時間になったら息子はもうダメです。ザネリくんだけでも助かってよかった」  どれくらい時間が経ったのだろうか。もうこれ以上は探しても無駄だと言わんばかりの星博士の姿が見えた。  ジョバンニは結末を知っているがためカムパネルラについては何も言えない。 「ザネリが死ねばよかったのに」  ジョバンニは口をへの字に結ぶ。 「早くミルクを取りに行かなきゃ」  そっと帰ろうとするが、星博士に見つかってしまう。 「やあ、ジョバンニくん。もうすぐお父さんが帰ってくると手紙が届いたけど、帰ってきたかい?」  首を横に振る。  ジョバンニの父親は、家族に手紙はくれないのに星博士には手紙を定期的に送っているようだった。  ジョバンニはぺこりと頭を下げてから、急いで牛乳屋へと向かった。配達し損ねたといっておまけでミルクを二本ももらった。ジョバンニは夜空いっぱいの、こぼれ落ちそうな星を見上げる。星の固まりがミルク色に流れていく。 「明日は父さん帰ってくるかな」  ワクワクしながら呟いた。  母親が待っているような気がして駆け足になる。ジョバンニの背は漆黒のような闇の中へと静かに消えて行った。  いつしか空を走るスターリンクは見えなくなり、ランタンが遥か遠く、まだもっと遠い場所で煌々と輝いていた。 (了)
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