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町外れの丘の芝に寝転がりながら夜空を見上げる二つの影があった。真夏といっても夜中近くになると、風も多少冷気を含んで生温いのに心地よい。
「今日は星がよく見えるね」
ジョバンニは数多に輝く星のせいで紺色に見える空を、隅から隅まで首を廻すように見渡した。空より星の面積の方が大きいのではないかと思えるほどに、輝きで満たされた天上はどこまでも限りがない。
「夏のわりに冷えてるから、空気が澄んでるんじゃないかな」
カムパネルラはどこか一点を見つめながら答えた。その先に星があるのかはわからない。カムパネルラは同い年で同じクラスだったが、かなり背も高く、体つきが少しずつ骨ばってきており、落ち着いた声色も大人びていた。
ジョバンニは小さくて幼児のようなオウトツのない体型だったので、いつも星を見上げるように、カムパネルラを見上げながら話をした。
「もうすぐスターリンクが飛ばされるよ」
スターリンクとは、アメリカの民間企業が開発を進めている低軌道小型通信衛星というもので、衛星インターネットアクセスを提供するのを目的としていた。
そう説明できたとしても、ジョバンニはイマイチその意味までは理解できていなかったのだが、宇宙に基地局があると、インターネットがより快適になるのかなと勝手に想像していた。
スターリンクはすでに何度も試験的に飛ばされており、今回も六十基ほど飛ばされる予定になっていた。
「今週末だったね。この辺りを通るのは夜の八時とか九時くらいかな」
「たぶんそのくらい。またこの丘に見にこようと思ってさ。スマホで撮影できるかな。前回見たときは慌てちゃって、後で動画を確認したら真っ暗だったよ」
ジョバンニは困ったように笑った。
「動画もいいけどさ、生で見た方が綺麗だと思うけどな。心の中ではなくて、形として残したい気持ちもわかるけど」
「銀河鉄道みたいなものがもし存在するとしたら、きっとあんな感じなんだろうねぇ」
「それ僕も思った。六十基だから短かったけど、車両一両ぶんくらいかな?六百基くらいあれば、完全な銀河鉄道だったよね」
二人はスマホを取り出して、夜空を撮影する練習を始めたがそう簡単にはいかない。ピントが合わなかったり、星が上手く映らなかったり、あーでもない、こーでもないと二人は話し合いながらいつまでも空を見上げた。
「星の中を泳ぎたいなあ」
カムパネルラはぽそりと独り言のように囁いた。
その声は風に乗ってジョバンニの耳元にまで届いたが、どういう意味かはわからず、ただ黙って空を見上げた。
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